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 プロフェッショナルの矜持
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 1929年3月18日生まれといいますから、現在84歳のビル・カニンガム。米ニュ
ーヨーク・タイムズに長年連載されている人気ファッション・コラム「オン・ザ・
ストリート」、社交コラム「イブニング・アワーズ」を担当する名物ファッショ
ン・フォトグラファーです。

 その彼の日常に密着し、素顔に迫ったドキュメンタリー映画を観てきました。「ビル・カニンガム&ニューヨーク」――。

 業界人なら誰もが知っている伝説的な存在でありながら、その私生活はとなると、数年来の知己でさえまったく見当がつかないという人物。撮影許可を得るまでに8年、取材・編集のためにさらに2年。なんと10年がかりで完成させた労作です。

 若手監督のための映画祭「第39回ニュー・ディレクターズ/ニュー・フィルムズ」のオープニングを飾ったのは、2010年3月のことですが、公開されたのはニューヨークのたった1館の映画館。ところが、次第に感動の輪が広がるにつれて、全米で異例の大ヒットを記録し、世界各地の映画祭でも次々と観客賞を受賞するなど、評判が評判を呼びました。

「この映画を観れば、ビル・カニンガムが第一人者であると同時に、唯一無二の存在であることが分かる」(タイムアウト誌)

「タイトル通り、カニンガムの物語はニューヨークの物語そのものである」(ニューヨーク・ポスト紙)

「自分の居場所はカメラの裏側だと固く信じるビル・カニンガムのドキュメンタリーが作られたこと自体が驚くべきことである」(サンフランシスコ・クロニクル紙)

 作品には、80歳を超えた現在もなお、現役最高齢モデルとして活躍するカルメ
ン・デロリフィチェや、作家のトム・ウルフ、映画「プラダを着た悪魔」の鬼編
集長のモデルとして知られる米版「ヴォーグ」編集長のアナ・ウィンターらも登
場して、この老練カメラマンのエピソードを披露しています。また彼のアーカイ
ブ画像や、過去のインタビュー映像などが効果的に挿入されていて、謎めいた輪
郭が次第に鮮明に浮かび上がってきます。けれども、そうした証言や記録よりも
何よりも、ビルの溌剌とした目の動き、スピーディで無駄のない身のこなし、人
生のすべてをファッションの神に捧げたかのような献身的な仕事ぶり、そして人
をとろけさせるような笑顔を見ているだけで、わくわくしてくる映画です。

「考える人」編集長 河野通和(こうのみちかず)