バッハ「無伴奏チェロ組曲」とは何だろう?

 バッハの「無伴奏チェロ組曲」の名盤は? と問われれば、パブロ・カザルス、ロストロポーヴィチ、ヨーヨー・マなど、人によってその答えは様々だと思います。そして、いったん「無伴奏チェロ組曲」の底知れぬ魅力にとりつかれてしまうと、演奏者の違う別の録音や、同じ演奏者による二回目の録音にまでついつい手を伸ばしてしまうのもまた、この曲を聴く人たちがしばしばたどる道でしょう。

 最初に手に入れる「無伴奏チェロ組曲」として選ばれることは少ないかもしれないけれど、いつかは必ず行き当たることになるのが、このオランダのチェロ奏者アンナー・ビルスマの「無伴奏チェロ組曲」、ということになるのだと思います。

 1934年生まれのアンナー・ビルスマは、これまでに二回録音をしています。最初の録音は1979年。次が1992年。特集でロングインタビューを掲載することができた吉田秀和さんは、最初の録音が発表された当時、まっさきにこれを取り上げて、次のように評価されました。

「このごろの演奏のなかには、同じ曲でも、これまでききなれていたのとはちがっていて、ハッとするというだけでなく、この曲にはこんなおもしろさ、こんな楽しさ、こんな美しさがひそんでいたのかと、改めて、曲を見直す機会を与えられるのが少なくない。
 たとえば、最近、アンナー・ビルスマ(Anner Bylsma)というチェリストによるバッハの『無伴奏チェロ組曲』全六曲のレコードが出た。これなど、今いった驚きであり、喜びであり、そこで弾かれている曲を改めて見直す機会になる典型的なものである」(『吉田秀和全集』第14巻所収)

 吉田さんが書いているように、アンナー・ビルスマの「無伴奏チェロ組曲」は、第一番のプレリュードを聴き始めた瞬間、「いまここで起こっていることはなんだろう」と全身が耳のようになっていくのに気づくような、まさにハッとして、曲を見直すような気持ちになる演奏です。

 そしてアンナー・ビルスマは、「バッハ――フェンシングの達人」というタイトルで「無伴奏チェロ組曲」について本を一冊書いてしまうほど、この曲の楽譜を深く読みこみ、考え続けている人でもあります(刊行されているのは外国語版のみです。入手先は末尾をご覧ください)。

 今回の特集では、どうしても直接に会って話をうかがいたい、と思いました。アンナー・ビルスマさんは今年73歳。オランダのアムステルダムにヴァイオリニストの妻ヴェラ・ベスさんと住んでいます。1875年頃に建てられ、当時は40人の女子学生が暮らしたという寄宿学校を改装した自邸で、昼食をはさんだ長い時間、ゆっくりとお話をうかがうことができました。チェロという楽器の魅力、「無伴奏チェロ組曲」でバッハはいったい何をたくらんでいたのか……興味の尽きないお話をお楽しみください。

アンナー・ビルスマ著『バッハ――フェンシングの達人』お問合せ先
株式会社 東京アーティスツ
TEL.03-3440-7571
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