言葉を指揮するひと――バーンスタイン
 堀江敏幸

 15年ほど前の深夜のテレビで、堀江敏幸さんは、オーケストラをしたがえたレナード・バーンスタインが、軽やかにピアノを弾きながら、観客にむかってにこやかに語りかけている姿をみました。

カメラはときおり、観客を映し出す。ところがそこに陣取っていたのは、着飾った両親とおなじように着飾った、おしゃまな少年少女たちだったのだ! それが、世界的成功を博したバーンスタインの「ヤング・ピープルズ・コンサート」との三十数年遅れの出会いだった。

 バーンスタインとニューヨーク・フィルハーモニックによる、この青少年のためのレクチャー・コンサートは、1958年1月18日にテレビ放映された第一回「音楽とは何か?」から、1972年3月26日放映の第53回「ホルスト『惑星』」まで、じつに15年にわたって続けられたのでした。

 ロッシーニ《ウィリアム・テル序曲》、ベートーヴェン《交響曲第六番》、ムソルグスキー《展覧会の絵》、チャイコフスキー《交響曲第四番・第五番》……いくつもの例をあげながら、これらの曲の音と音とのつながりが、どのように機能し、どのように人の心を動かすか、バーンスタインはあくまで音符に即して語っていきます。

 バーンスタインのくりだす言葉の力、そして言葉と連動した表情と身体の動き、つまり表現力に堀江さんは感嘆します。その力と音楽のよろこびを伝えたいというひたむきな思いが、おそらく初めてクラシック音楽に接しているであろうカーネギー・ホールの子どもたちを、そしてテレビ放映では、音楽理論などとはもとより無縁の多くの大人たちを魅了します。

音楽とはなにか? 音楽の意味とはなにか? それは端的に言って、聴いているとき、こちらになにかを感じさせるやり方なのだ。音楽が私たちになにかを――物語でもなく絵画でもなく、感情を――語ってくれるとしたら、そして私たちを内側から変えてくれるとしたら、そのとき、私たちは音楽を理解しつつあるのです、とバーンスタインは第一回を締めくくり、最良の贈りものとしてラヴェルの《ラ・ヴァルス》を演奏する。

 じつは、このコンサートに出会うまでは、バーンスタインの指揮があまり好みではなかったという堀江さん。その堀江さんをも魅了した、教育者バーンスタインの生き生きとした姿と彼が伝えようとしたものを、「言葉を指揮するひと――バーンスタイン」でぜひごらんください。