今森光彦「里山の匂い」

 自然の豊かな田舎にでかけると、「光景」という言葉よりも「風景」という言葉こそふさわしいと感じることがあります。「光景」が似合うものは、都市生活のなかにあるのかもしれません。

 写真家の今森光彦さんは、滋賀県の琵琶湖のほとりにある里山にアトリエをかまえています。原生林でもなく街でもない、人と自然が混じりあう場所である里山は、今の日本から少しずつ消えてゆく風景のひとつになりつつあります。今森さんは、その里山で写真を撮り続け、風景のなかにある小さなディテールや、昔から変わらない懐かしさや、私たちの記憶の底にある姿を浮かび上がらせます。

 冬の風景に欠かせないのはやはり雪です。都会暮しの長い人間の頭のなかには、いつもどおりの当たり前の雪のイメージしかありません。しかし、ご覧のとおり、今森さんの捉えた雪の風景は、どこかユーモラスで見たことがないものです。「どうしてこんな形になったのだろう?」と頭のなかにいくつもの「?」が浮かぶ不思議な風景。

 そして今回の風景の陰の主役は、その言葉にも含まれている「風」かもしれません。自然がつくり出す不思議なデザインは、風がなければつくりだされることもないからです。遠ざかりつつある冬が春と入れ替わるとき、風の向きも変わります。冬の風はこんな風景を記憶に残してしだいに去ってゆくのでしょう。