「日本の里山」

「考える人」創刊以来、里山をテーマに連載を続けてきた今森光彦さん。「里山の匂い」(創刊号~2005年秋号)、「琵琶湖水系の旅」(2006年秋号~2010年秋号)は、ともに自身の故郷である琵琶湖畔をフィールドとするシリーズでしたが、2011年の冬号からその舞台をぐっと広げて、現在は日本全国の里山を巡る「日本の里山」に受け継がれ、連載を続けています。

 その第1回に、今森さんはこんなふうに語っています。

長い間、琵琶湖周辺にひろがる里山を見つめてきた。
それは、人と自然が織りなす複雑な糸の絡まりを、
一本一本ときほぐしながら観察する作業であった。
そんな私が、これから日本に残る風景を
自分の目で見て記録していこうと思う。
それは、私にとって里山という生命の小宇宙を
再発見するための旅でもある。

 冬の東北、宮城県黒川郡大和町のコナラの薪炭林に始まった「日本の里山」は、北は北海道の斜里町から、南は沖縄県竹富島まで、本州、四国、九州とすでに日本全国15箇所を巡ってきました。

 今森さんが見つめている「里山」とは、手付かずの原生林や秘境の大自然ではなく、野生の領域と人間の生活圏の境目に位置する、人と自然が共存している空間。里山は人間が野生の動物たちと程よくすみ分けるための緩衝地帯としての役割も果たしてきました。しかし近年、耕作放棄された田畑が増えるにつれ、そのバランスが崩れ始め、野生の動物たちが人間世界に踏み込む事件が増えています。写真集『里山物語』の舞台になった、今森さんがアトリエを構える琵琶湖畔の仰木集落のあたりでさえも、鹿の食害が増えたため、田畑には電気柵が張り巡らされています。

 日本の原風景ともいえる農村風景や、その周辺をとりまく里山環境は、このまま失われてしまうのでしょうか? しかし一方で、自然環境とほどよく共存しながら営む農業が見直されつつあります。今森さんが日本全国で出会った今現在の里山の風景を、“失われゆく日本の風土のメモリアル”と見るのか、それともそこに“次世代へと受け継ぐべき大切なメッセージ”を見出すのか――里山の風景が語ることばに、耳をかたむけてみませんか。