「あたしはいちばんハッピーかもしれない。ラッキーだと思う」
 日本海を臨む国立病院機構新潟病院で会った千徳良子さんは、リハビリでかいた汗をぬぐいながら、目を輝かせてこう言いました。27年前に進行性の難病と診断され、徐々に歩くことが困難になっていまは車椅子生活をしている人が、にっこり笑って言うのです。「ハッピー」だと。
 理由のひとつは、千徳さんが受けているロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)を使った歩行訓練です。HALとは、体の電位信号から人の随意運動意図をとらえて、その動作を補助する下肢装着型補助ロボットのことで、自分の足で歩くことが難しくなった人がその支えを得て歩行訓練することによって歩行機能の改善や回復が期待されるものです。

「二本杖を使っての歩行は15から20メートルがやっと。でも一昨年11月から新潟病院でロボット訓練を開始して、HALを装着して歩くと400メートルから600メートルも歩けました。訓練を続けてきた結果、いまでは1000メートル歩くこともできます。奇跡に本当に興奮しました。歩くってこういうことだったんだ、と感覚を取り戻しました」。千徳さんは言います。
 この感動を求めて、HALの治験を進める新潟病院の中島孝副院長のもとには全国から患者さんがやってきます。
 医療現場での機械の活用には「人工的だ」という否定的な声もあるようですが、中島医師は「もともと人間は道具を使う生き物。火だって道具なのだから、機械も活用すればいい」と、実用化に積極的です。
 というのも、中島医師にとって医療の目標とは、治らない病気になった患者さんが、「いかがですか?」と聞かれて「ふつうです」と答えられる状態にもっていくことだからです。呼吸器をつけていたり、車椅子だったり、“ふつう”ではないかもしれない人が、苦痛も不便もなく「ふつう」と言えること。それこそが大事だと中島医師は言うのです。

 ではどうすれば、そんなことが起きるのか? 中島医師は「ナラティブ(物語)の書き換えができたから」と解説します。難病の診断を受けてショックを受けた人が、やがてその病気のための啓蒙活動に関わるようになり、「初めて社会の役に立つ自分を見つけられた」と肯定的な意味づけをする。あるいは、仕事漬けだった夫が病気によって自分のところに戻ってきたと喜ぶ妻がいる――こうした「意味の再構築」がなされたとき、どんな事象も無駄や災厄ではなく、人生において意味のあることと受け止めることができるようになる。そして、その瞬間瞬間をいきいきと生きられるようになる。中島医師はそう語ります。
 人はみな老いて、いつかは治らない病気になって100%死んでいきます。であるならば、与えられた時間の中で、物語を書き換えながら幸せに暮らせばいい――中島医師の希望の言葉を冬号でお読みください。