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『マジョモリ』作・梨木香歩 絵・早川司寿乃
(理論社)


「考える人」で「ぐるりのこと」を連載している作家、梨木さんの絵本です。その連載第三回「隠れたい場所」(03年冬号)をお読みになった方なら、「あ、あのことが、こういうお話につながったのか!」と思い当たることでしょう。

 物語には三人の女性が登場します。そしてある不思議な出来事を媒介にして、この三人の女性が交流します。舞台は無断立ち入りが禁じられている御陵。

 静謐で軽やかな物語を読み進めながら、もしこの三人の登場人物がすべて男性だったら物語はどのように変化するのだろうかと思いました。たとえば、物語には「対立」や「冒険」や「スピード」などの要素が加わり、過剰で騒々しい話になったかもしれないと感じます。御陵の森を舞台にしたスピルバーグ監督の映画『レイダース』的な世界を展開させることもできるかもしれません。

 しかし、物語に「対立」や「冒険」や「スピード」がなくても、読者の心の深い場所に届くものがあることを『マジョモリ』は伝えてきます。それらの要素が、男がかかえている「過剰さ」「不安定さ」の現れであるとすれば、『マジョモリ』に描かれる女性性に、いま私たちが切実に必要とするものを見てとることができるのかもしれません。『マジョモリ』の三人の女性のやりとりは、戦争に傾斜しない人間のあり方さえも示唆しているのではないか。そんなことにまで考えが及びます。

 私の子どもが通っていた保育園での光景を思い出しても、男の子たちはどこか不安定で過剰でした。遊び方ひとつとっても、男の子には余計な動きがあまりに多く、女の子たちは男の子の騒ぎ方をどこか冷めた目で眺めているように感じたことがあります。男とは過剰な行動によって、本質的な不安定さを覆い隠し、弱さを強さに反転させようとする「無理の多い存在」なのかもしれません。

 早川司寿乃さんの絵の素晴らしさにも、女性ならではのものを発見できます。絵本のなかの「白」あるいは「空白」の大胆な使い方。たとえば、物語の後半に描かれる御陵の森の上空の「空白」の美しさ! もし登場人物が男三人であったなら、その「空白」は極めて不安定なものへと転化し、「戦い」や「死」を象徴していたかもしれません。しかし早川さんの独特の色使いや繊細な線の運びは、「空白」を残すことによって、おのずと本書のテーマである連続する生命の尊さを静かに伝えてくるのです。

 以上は、男性である私の一方的な読み方にすぎません。春から夏へと移り変わる今の季節の生命力を感じながら、この物語に展開する森の気配を味わうだけでも、『マジョモリ』はじゅうぶん楽しめるはずです。
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