Kangaeruhito HTML Mail Magazine 039
 

『昭和こども図鑑』
文・奥成達 絵・ながたはるみ(ポプラ社)


 昭和20年代、30年代、40年代をテーマにした本がここ数年でかなりの点数刊行されているようです。昭和33年生まれの私としては、ついついそういった本に目が吸い寄せられてしまいます。つい先日も、NHKソフトウェアから発売されているDVD「東京風景」でその頃の映像を堪能したばかりです。

 本書は、昭和17年東京・品川生まれの著者が、実際に自分がその時代にどのように暮らしていたかについて、周到に資料にあたりつつ、基本的には自分の記憶とその実感をたよりに書いています。

 卓袱台、二段の物干し、蠅帳、ダルマストーブ、足踏み式ミシン、牛乳受け箱、シッカロール、プラッシー、五百円札、オブラート……世の中から消えたものばかりでもないのですが、昭和20年代、30年代、40年代当時のエピソードとともに語られるとき、これらの「モノ」たちは特別な意味合いを持った光景のなかに立ち現れてくるのです。

 たとえば、「往診カバン」。昔はどこの家にもかかりつけの個人医院が比較的近所にあり、子どもが風邪をひいたぐらいでも、医者はどこか重々しい往診カバンをさげてやってきました。風邪をひいたときの特別扱い、注射の際の消毒液の匂い。風邪ぐらいの病気であれば、子どもはどこかで密かにその特別な時間を楽しんでいたのです。

 子どもたちの遊びも実に豊かです。ほとんどの遊びは単調そのものですが、単調であるがゆえに、かえってスリルと興奮を味わえたのでしょう。たとえば私も昔熱中したことのある「くぎさし」の遊び。しかしそれも今となっては、むき出しの土の地面が少ない都会では難しい遊びになってしまいました。巻末には昔懐かしい子どもの遊びが図解入りで紹介されているので、お子さんがいらっしゃる方ならば夏休みの機会に子どもたちに昔の遊びを伝えることもできるでしょう。

 そういったモノや遊びの記憶が、写真ではなく、絵によって再現されていることも本書の大きな魅力のひとつです。ながたはるみさんの絵は、具体なモノに対する実感と当時の気配を見事に伝える輪郭を持っていて、読み手の記憶、想像力を刺戟してくれます。

 昔の子どもたちの顔つきや体つきは、たしかにこんな感じだったなあ、と不思議な感慨にもとらわれました。
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