2003年冬号は、エッセイスト伊丹十三の特集です。
 若い世代の読者にとっては、伊丹十三といえば「映画監督」の印象が強いはず。しかし、ある世代以上の人々にとっては、伊丹十三といえば何と言っても『ヨーロッパ退屈日記』を初めとする名エッセイの著者、ということになるはずです。

 さらに伊丹十三の仕事を熱心に追っていた人であれば、「遠くへ行きたい」や「天皇の世紀」のテレビ画面に登場した伊丹十三を、あるいは映画「お葬式」の舞台にもなった湯河原のお宅で撮影した数々のコマーシャルフィルムの記憶も甦るかもしれません。

 とにかくあのエッセイの面白さには比類がありませんでした。イギリスの車はなぜオイルが漏るのか、目玉焼きの正しい食べ方というのはあるのか、生涯のうち人は三回だけ本当の恋ができるという説は本当か、といった瑣末なような深刻なような話題を、見事に料理する文章の名人でした。

 あらためて伊丹十三のエッセイを読み返すと、「え? 二十年以上も前にすでにこんなことを言っていたのか!」と驚くほど先見性のあるものも少なくありません。そして、当時の風俗を扱うようなものであっても、そこには鋭い人間観察があり、人生への洞察がこめられているのです。

 特集では単行本未収録のエッセイも採録し、エッセイスト伊丹十三をよく知る方々にもインタビューし、テレビ番組やCM作品も誌上採録しながら、伊丹十三というエッセイストが私たちにのこしたものとは何だったのかを探ります。