90年代前半に「マザー・ネイチャーズ」という不定期刊行の雑誌がありました。岩合光昭、星野道夫、池澤夏樹、大貫妙子といった「考える人」にも縁のある方々が、自然と人間をテーマにのびのびと仕事をしてくださっていた雑誌です。

 立花隆さんも「マザー・ネイチャーズ」に連載対談のシリーズを持ち、毎回ゲストを迎えて、当時の最先端の自然科学の知見について、掘り下げた話を展開してくださいました。ゲストの方々は、河合雅雄(サル学)、日高敏隆(動物行動学)、松井孝典(惑星科学)、多田富雄(免疫学)、河合隼雄(心理学)、古谷雅樹(植物学)、服部勉(微生物学)。

 1960年代の後半から、河合隼雄さんが中心となって日本での紹介が始まったユング派の心理学は、20年以上の時を経ても「科学ではない」というような批判にさらされることがしばしばあったのではないかと思います。河合さんを対談のゲストにお迎えしたのは1992年。立花さんはそのような批判的な部分もふまえた上で、徹底した準備をして連載対談に臨みました。かなり深いところまで切り込む結果となり、読み応えのある対談になりました。

 河合さんの仕事のうち、臨床心理の仕事の全貌はなかなかとらえにくいところがあります。それは一対一のプライヴェートな空間で行われることだからでもあり、しかしやはり一対一で行われたこの対談であったからこそ、河合さんの臨床心理の仕事の輪郭が見えてきたのではないかと思います。

 立花隆さんの連載対談をまとめた本『マザーネイチャーズ・トーク』は残念ながら現在は単行本も文庫本も絶版になっています。河合さんの臨床心理の仕事の輪郭を、ここできちんともう一度おさらいしておくために、立花さんによる対談を再録いたしました。

 冒頭だけ引用しておきましょう。

立花先生は、今も心理療法の治療を実際になさっていらっしゃるわけですが、クライエント、つまり、患者さんはどれぐらいいらっしゃるんですか。
河合今、ちょっと減ってますけれど、週に十三人ぐらいです。
立花定期的にお会いになるわけですね。週一回ぐらいのサイクルでですか。
河合ええ、基本的には。なかには一週間待ちきれない方もありますから、あいだに電話をかけたり……。
立花一回にかかる時間というのは。
河合五十分です。
立花治るまでどれくらいかかるんですか。
河合それはもうさまざまですね。二、三回会えばいいなんていう方もいます。それからもう二十年越える方もいるんです。