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三砂ちづる
『オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す』
(光文社新書)


 私は男なので究極のところではこの本についてあれこれ言える立場にはありません……と書き始めてはみたものの、こういう言い方は「逃げ」なのかもしれない、男は逃げるな、男こそこの本を読んで考えよ、とでも言いたい気持ちが頭をもたげてきます。

 本書を要約するのはなかなか難しい。自然存在としての女性の生き方について、蛮勇をふるったのであろう提言が続々と登場する本です。読者によっては「暴論」「極論」でしかない、と感じる人も少なくないでしょう。しかし、「はじめに」のなかで著者が書いているように、本書は「性や思春期、月経、出産という、女性のからだにとって重要だと思われることについて、少し違った視点から取り上げた」ものなのです。世の中の通念やモラルの枠組みで本書を裁いてしまうと、せっかくの「蛮勇」の謂いが見えなくなってしまうのではないでしょうか。

『風邪の効用』や『整体入門』(二冊ともに、ちくま文庫刊)の著者である野口晴哉(1976年没)は、『女である時期』(全生社)をはじめとする著作のなかで、「自分は男だからわからない」などと逃げることなく、女性の身体と生理について独自の身体観を展開しています。また、小誌「考える人」で連載中の齋藤孝氏が新潮学芸賞を受賞した著作『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス)でも、野口晴哉の身体観を引用している部分があったことを思い出します。

 没後三十年近くが経過してから、ちくま文庫から発売された野口晴哉の著作二冊がロングセラー化している状況は、やはり現在の私たちの生活、あるいは生き方、社会そのものが、身体を扱いかねている、あるいは失っている、忘れている、覆い隠している……そのような状況に陥っていることに対する反動なのかもしれません。

 本書にも野口晴哉が登場します。身体を直接見て、触れて、感じながら、身体というシステムを合理的にとらえた野口晴哉の思想が、昭和三十年代生まれの三砂氏や齋藤氏に影響を与えていることについて、世代論的な側面から分析してみる必要があるのかもしれません(私自身も昭和三十三年生まれ、三砂氏と同い年です)。

 いずれにせよ、戦後の日本が生活文化の側面でもアメリカの後を無批判についていきながら、「性の解放、自由化」を徐々に達成してきたのはご承知のとおりです。しかし、「性」が煌々と照らされる明るい場所にひっぱり出されてきたことによって、かえって本来的な「性」の姿が、気がついてみれば妙なかたちで抑圧されてしまっている。本書はそのあたりの事情について、世代論を効果的に援用しながら、大胆果敢に斬り込んでいるのです。

 本書を「暴論」「極論」だとして様々な角度からの批判、論争が巻き起こってくれば、著者が蛮勇をふるった甲斐があった、ということになるのではないでしょうか。ともあれ、異色の問題作であることには間違いありません。
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