Kangaeruhito HTML Mail Magazine 114
 おどろくことばかり

 音楽で分類すると、この世の中には二種類の人がいるようです。日常生活にどうしても音楽が必要な人と、音楽がなくても大丈夫という人。次号の特集「クラシック音楽と本さえあれば」を担当することになった編集部のAさんは「音楽不要派」。本を読むときなどは「音楽なんか鳴っていたら気になるし、うるさいし、すぐ消しますね」というタイプ。私はといえば、たとえば長い翻訳原稿を自宅に持ち帰って土日で集中して入稿作業、などというときには、たとえばジョン・コルトレーンの「マイ・フェイバリット・シングス」や「ジャイアント・ステップス」なんかを小さい音でかけながらやったほうが赤鉛筆の指定がすいすい進むクチです。「音楽不要派」にとっては「よく音楽を流しながら仕事ができるわね」という光景なのでしょう。

 日常的には「音楽不要派」のAさんだからこそ、ぜひ音楽特集を担当してほしい、と思い、躊躇する彼女を半ば無理矢理引っぱりこんだのです。深い理由はないのですが、そんな彼女であってもそれなりに面白く仕事をしてくれるぐらいでなければ音楽特集は面白いものにはならないのでは、という気持ちもあったからです。

 やるとなれば彼女は仕事が早いので、執筆者や関係者にどんどん連絡を取り始めています。その依頼作業の途中で、ちょっとびっくり、という顔をした彼女が私に近づいて来ました。今回初めて連絡をとった執筆者が快く執筆を引き受けてくれたものの、そのやりとりをしていたメールのなかに、意外なくだりがあったと言うのです。

「『考える人』のことはよくご存知だったのですけど、『考える人』は定期購読誌だから面白そうな号があってもバラ売りしないしって。『東京駅の近くの○○ならバラ売りしてますよ』って知り合いから教えられたので、今度行ってみますって書いてあったんです。……マツイエさん、『考える人』って定期購読のみの雑誌と思い込んでいる人が実はいっぱいいたりするんじゃないでしょうか? 雑誌売り場には行かない『本読み』タイプの人だったりすると、売っていることに気づかないケース、ありますよきっと。書店で普通に買えるって、もっとアピールした方がいいんじゃないんですか?」

 驚きました。たしかに「考える人」の定期購読率は新潮社の他の雑誌に較べるととても高く、そのことはとてもありがたいことだと思っています。ですが、このメルマガでも何度か書いているとおり、雑誌が刊行されるたびに営業部の担当者とエリアを決めて書店回りをし、ポスター貼りなどお店にお願いをしているわけで、「店頭売り」は大事という気持ちは人一倍強いのです。しかし、どうしてそういうイメージを持たれてしまったのでしょう?

「実は言わなかったんですけど、創刊二年目ぐらいの頃かな、Bさんにも同じようなことを言われたことがあるんです。『考える人』って定期購読専門でしょって。同じ世界で原稿を書いたり本を出したりしている人にそう思われてたっていうのは、ちょっとナンですよね?」
「どうしてそう思われちゃったんだろう」
 そこで彼女はちょっと悪戯っぽい笑顔になりました。
「売りたい! 買って欲しい!っていう誌面作りじゃないからかも(笑)。雑誌としてどこか普通じゃない感じに見えて、これはとても書店で売るようなものじゃなく、『直接お届けするもの』みたいな顔をしている、とか」
「それは貶してるのか誉めてるのか微妙なところだね」
「あははははは」

 自分としてはそれほど特別変わったことをやっている気持ちはないのです。もちろん、ちゃんと売りたい気持ちも「ありますあります!」とダブルで言いたいぐらいあるのです。でもなあ……と自問自答態勢に入った翌々日、今度はパーソナル事業部のUさんが何かを抱えてやって来ました。

「マツイエさん、今いいですか? これ、ちょっと見てください。けっこう来てます、読者アンケート。みなさん熱心に書いてくださってます」
 創刊以来、きちんとした読者アンケートを一度もとったことがなかったのですが、自分たちのやっていることと読者の求めるものが大きく隔たっていたりはしないか、そもそも読者はどういう方々なのか、そのおおよその様子を知りたいと思い、今発売中の最新号の巻末に質問項目が多々あるアンケートを付けたのです。締め切りは今月末なのですが、すでに毎日続々とアンケートが届き始めているのです(ささやかながら、抽選によるプレゼントがありますので、まだの方はぜひアンケートにご記入の上ご投函くださいますよう──)。

「考える人」のワークテーブルにドスンと(ちょっと大げさか)置かれたアンケートの封書の束は、読み始めたらやめられない面白さでした。該当項目に○をつけていただく以外の、自由に書き込んでいただく欄には、はみ出すほどいっぱい手書きの文字が溢れているものが多いのです。率直な意見、ありがたいお言葉、辛口の批評、これは実現してみたいと膝を乗り出したくなるような提案、考えてもいなかった視点……読みふけってしまいました。「すごいねこれは」アンケートを一枚一枚めくりながら私は思わず唸ってしまいます。正直言って、どの程度の反応があるか、まったく予想もつかなかったのです。ですがこんなにたくさんの、そして気持ちのこもったアンケートが集まってくるとは驚きでした。

 これからもまだまだ届きそうな気配です。アンケートの迫力に気圧されるばかりでまだ自分の頭のなかが未整理状態なので、今回は詳しくは触れないことにしますが、このアンケートは今月末1月31日が締め切りです。2月に入ったところで集計させていただくので、その際にはあらためて一枚一枚じっくり丹念に読ませていただくつもりです。その結果、いろいろと見えてくること、考えたことは、2月中にこのメルマガでも詳しく触れたいと思っています。

 やっぱり雑誌は生き物だと思います。意外な反応があったり、思わぬところで成長していたり、新しいテーマという名の「獲物」をくわえて帰ってきたり……。読者も編集者もそれぞれ驚くような何かがときおり顔を出す、「生きている」「成長する」「顔つきのはっきりした」雑誌であり続けたい、とあらためて思います。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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