ここで一度、この開かれた円環を一旦閉じておこうと思う。生物学的な親子関係の先に広がる非生物学的な継承関係については、また別の円環を新たに開き、展開していく必要があるだろう。
 ここまで書くなかで、子どもの誕生の瞬間から今日に至る成長過程の記憶を呼び覚ましながら、根を一つにするが四方八方に散っていた思考の断片をつなぎとめるフレームが浮き彫りになった。それはわたしの人生に突如出現してくれて、なんの衒いもなく、今日まで共に生きてきてくれた娘の存在によってかたちづくられた。
 この連載を書いている間にも、彼女は小学校に入り、二ヶ月あまりでフランス語の読み書きができるようになった。もう頭をぶつけて日本語を忘れる必要はなさそうだと思えば、近代的な規律訓練disciplineもそこまで忌むべきものではないように思えてくるから不思議だ。彼女はこれからますます自律的になっていき、わたしの想像し得ない言葉を獲得していくだろう。その過程でいつか、この文章を見つけたら、そのなかに書かれてある自分自身の過去を切り開き、わたしのかいま見た未来を想い出してもらって、自らの探求の糧としてもらえたら、嬉しくおもう。(了)

※ご愛読ありがとうございました。本連載をまとめた本を、新潮社から刊行予定です。