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インドの神話世界

2019年4月10日 インドの神話世界

11 ゲーム「パズドラ」のインドラとヴリトラを、神話学から読み解く!

著者: 沖田瑞穂

 人気のゲーム「パズドラ」(パズル&ドラゴンズ、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社)にはたくさんの神々が出てきます。本来の神話の地域や時代を離れてゲームの中に現れる神々には、なにか現代ならではの意味が見出されるのでしょうか? 今回は、「パズドラ」の神々について、その構造から分析していきます。

 本作はパズルゲームで、6×5マス、あるいは7×6マス、5×4マスの中に出現する「ドロップ」と呼ばれる色分けされたブロックを、タテ・ヨコに三つ以上、同色につなげることで消し、それによって画面奥にいる敵モンスターを攻撃します。その種類は五つあり、色分けされています。火=赤、水=青、木=緑、光=黄、闇=紫、となっています。たとえば火のドロップを消すと、火の性質(本作では「属性」と呼びます)を持つ自分のモンスターが敵モンスターに攻撃を行います。
 プレーヤーは最大で六体のモンスターによって構成されるチームでダンジョンへ入り、パズルのドロップを次々に消すことで敵を攻撃します。

 私は初心者でまだ少ししかモンスターを持っていませんが、ダグザ(ケルトの豊穣の神)やイザナギ(日本の創世の神)などもいます。ダグザは「木属性」の大柄な姿、イザナギは和装の「光属性」など、それぞれの神の出自と特徴をうまく捉えた図案となっています。
 この「パズドラ」で、インドの神であるインドラがなぜかドラゴンの姿をしています。他の神様たちは、例外を除いてほとんど「人」の姿をしているのに……? とても興味深い現象です。

インドラ © GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

 なお、以下で私が言う「ドラゴン」は西洋の蛇形やトカゲ形の怪物を指します。インドとエジプトの神話のみ、いわゆる「ドラゴン」は空想の動物ではなく実在の蛇「コブラ」となります。中国の蛇形の神的存在は「龍」です。
 ただし「パズドラ」では、とくにことばの使い分けはなされていないようです。

 さて、上述の問題を考えるにあたり、まず「パズドラ」の「神タイプ」のモンスター一覧をネットで見たのですが、神とドラゴンの関係について確認できたのは、以下です。

・名前のあとに「ドラゴン」とつけられ、ドラゴンの姿をしているもの。
「ラー=ドラゴン」:ラーはエジプトの太陽神
「オーディン=ドラゴン」:オーディンは北欧の最高神で魔術の神
「ツクヨミ=ドラゴン」:ツクヨミは日本の月の神
「ヘラ=ドラゴン」:ヘラはギリシャの神々の女王

・名前の前に龍の文字が入れられ、ドラゴンの姿をしているもの。
天頂(てんちょう)雷霆龍(うんていりゅう)・インドラ」
深潭(しんたん)暗黒龍(あんこくりゅう)・ヴリトラ」:ヴリトラはインド神話の悪龍でインドラの天敵
紅蓮龍神(ぐれんりゅうじん)・ヒノカグツチ」:ヒノカグツチは日本の火の神
焔獄蛇神(えんごくじゃしん)・ヒノカグツチ」:同上

 繰り返しになりますが、興味深いのは、インドラが「龍」となっている、という現象です。「パズル&ドラゴンズ」というタイトルなのですから、ドラゴンや龍が多く登場したり、神とドラゴン・龍が合体していてもそう不思議ではありません。しかし、インドラがなぜ龍なのか、については考察しておく価値があると思うのです。
 まず、インドラの神話を紹介しましょう。『マハーバーラタ』の神話で、上村勝彦先生がサンスクリット語から訳されたものを、あらすじにしてご紹介します。

 創造神であり、ものづくりをするように世界を作った神であるトヴァシュトリは、インドラを害するためにヴィシュヴァルーパという名の三つの頭を持つ息子を作った。この息子は激しい苦行を行い、インドラを恐れさせた。インドラは天女アプサラスたちに、ヴィシュヴァルーパを誘惑して苦行を妨害するように命じた。天女たちはあらゆる努力をしたがヴィシュヴァルーパを動揺させることはできなかった。仕方なくインドラは金剛杵ヴァジュラを投じてヴィシュヴァルーパを殺した。彼は倒れてもなお輝かしい光を放ち、生きているかのようであった。インドラは近くで見かけた木こりに、「この頭を切り落とせ」と命じた。木こりはためらいながらもその頭を切り落とした。三つの頭が切られた時、三種類の鳥たちがその頭から飛び立った。インドラは切り落とされた頭を持って、喜び勇んで天界に帰った。
 息子を殺されたトヴァシュトリは激怒した。彼は火の中に供物を投じて恐ろしい怪物ヴリトラを作り出し、インドラ殺害を命令した。両者は激しく戦った。ヴリトラはインドラを口の中に呑み込んでしまった。インドラはヴリトラにあくびをさせ、かろうじて外に飛び出した。それ以来、呼吸するものはあくびをするようになったという。
 激しい戦闘が続き、インドラは一旦退却し、ヴィシュヌの方策に従って、ヴリトラと和平条約を結んだ。その際、ヴリトラは条件を出した。「乾いたもの、湿ったもの、岩や木、兵器、ヴァジュラ(金剛杵)によって、昼も夜も、インドラと神々は私を殺してはならない。」神々はその提案を受け入れた。
 ある日の黎明(または黄昏)に、インドラはヴリトラが海岸にいるのを見て、「今は薄明時で、昼でも夜でもない。今、策略を用いて彼を殺そう」と考えた。すると海上に山のような泡が現れた。「この泡は乾いてもいないし湿ってもいない」と言ってその泡をヴリトラに投げつけた。その泡の中に入り込んだヴィシュヌがヴリトラを殺した。(上村勝彦『インド神話』東京書籍、1981年、89-93頁を参照)

 この話の中でインドラに退治される怪物ヴリトラは蛇の怪物で、コブラです。とすると、「パズドラ」のモンスターとしてのインドラにおいては、古代神話のインドラが、自ら倒した怪物である蛇の怪物の姿を取っている、ということになります。なお蛇とドラゴンと龍の関係ですが、蛇は実在のもので、龍とドラゴンは架空のものですが、龍とドラゴンの基盤には蛇がある、言ってみれば同種族である、と考えて差し支えありません。

 「パズドラ」ではヴリトラのモンスターも存在しています。両者の図柄を比べてみると、インドラは「光属性」で、4本脚、翼があり、分岐した角を持ち尻尾があります。ヴリトラの方は「闇属性」で、4本脚、大きな翼があり、長い2本の角と尻尾を持ちます。属性が正反対であること以外は、その姿はとてもよく似ています。

 さて、このような「敵対者同士の一体化」という現象は神話にはしばしば見られるものです。
 インドラは雷の神で雨の神、ヴリトラはインド最古の宗教文献『リグ・ヴェーダ』によると「水をせき止めて干ばつを起こしていた怪物」なので、どちらも、パズドラ用語を用いると「水属性」です。インドラはヴリトラを退治して水の領域を支配下においた、と解釈することもできるでしょう。

 似た現象が、ギリシャ神話のアテナにも認められます。アテナは、英雄ペルセウスが蛇の怪物メデューサを退治するのを守護し、ペルセウスからメデューサの首を献上されて盾にそれを取り付けている、とされています。ところがアテナ自身、もともと蛇と関連の深い「蛇女神」なのです。アテナの図像には、彼女の衣の袖が全て蛇になっているものも見られるからです。
 盾のメデューサの首も、ペルセウスによるメデューサ退治の神話が成立する以前から、アテナ自身の象徴であった可能性が高いと考えられています。いずれにせよ、アテナは蛇女神、アテナの助力で退治されたメデューサも蛇、ということで、倒す者と倒される者の間で蛇という要素が共有されているわけです。

 同様の現象は、現代の文学にも見られます。「ハリー・ポッター・シリーズ」です。主人公ハリーは、闇の帝王ヴォルデモートと宿敵の関係にあります。ところがこの両者は、魂のレベルで切っても切れない関係というのです。
 まずハリーは「蛇語」を解し、話すこともできます。文字通り、蛇と会話ができるのです。この力は、ヴォルデモートに由来します。ハリーは赤子の時にヴォルデモートに殺されかけますが、母のリリーによって守られました。その時にヴォルデモートの魂の一部がハリーの中に入ってしまったのです。こうして本来ヴォルデモートの力であった蛇語力が、ハリーに受け継がれたのです。
 それだけではありません。ヴォルデモートは「炎のゴブレット」を使って蘇るのですが、この時にハリーの血を使いました。これによって、ハリーの中に流れる母リリーの守りの力がヴォルデモートの中に流れ込みました。つまり、「蛇」と「リリーの守り」が、ハリーとヴォルデモートの間で、それぞれ交換され共有されたわけです。
 そしてハリー自身が、ヴォルデモートの意図しない「分霊箱」、魂の一部の宿り場ともなっていました。この二人は、まさに魂を共有しているのです。
 複雑な関係ではありますが、やはりこの物語にも、「敵同士の一体化と同属性」の構造が見て取れます。

 このように見てくると、古代の神話でも、現代の文学やゲームでも、共通した「構造」を見出すことができる、と言えそうです。その構造はおそらく、人間の「無意識」から創り出されるものと思われます。「ゲームの神話性」という問題を考えるに当たり、単に神々の名がゲームに登場するというだけではなく、その無意識から創り出される「構造」に目を向けることも読み解きの鍵となります。

※これらは著者の解釈によるものであり、『パズル&ドラゴンズ』との事実関係はありません。

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

沖田瑞穂

おきた・みずほ 1977年生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程修了。博士(日本語日本文学)。中央大学、日本女子大学、等非常勤講師。専門はインド神話、比較神話。主著『マハーバーラタの神話学』(弘文堂)、『怖い女』(原書房)、『人間の悩み、あの神様はどう答えるか』(青春文庫)、『マハーバーラタ入門』(勉誠出版)、『インド神話物語 マハーバーラタ』(監訳、原書房)、共編著『世界女神大事典』(原書房)。

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