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2002年11月21日

『続・住宅巡礼』中村好文

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『続・住宅巡礼』中村好文

 建築家は実によく旅をします。中村さんとも親しかった建築家の宮脇檀さん(エッセイストとしても数々の愉しい著作があります)も、暇さえあれば、いや暇などなくても、年に少なくとも四、五回は海外を旅していたように記憶しています。

 宮脇さんはよくおっしゃっていました。「建築ならなんでも、遺跡でも巷の無名の家でも見れば発見があるし面白いよ。食べ物と建築がありさえすればどこへでも行きたいね。月に建物ができれば行っちゃうだろうなあ!」旅や食を語る宮脇さんの輝くような表情は少年のようでした。

 建築家は食べ物やお酒にも興味津々です。ホテルのレストランには見向きもせず、ガイドブックの情報も鵜呑みにはせず、あらゆる情報を集めてその町で評判のレストランを探し出します。それも高級レストランではない地元の常連客ばかりが集まるような店をピタリと探し当てるのです。その執着心と勘はへたな刑事よりも強く鋭いのではないかとすら思います。偶然の神様もちゃんと味方につけるのが良き建築家の条件なのかもしれません。

 中村さんも実によく旅に出ます。今年だけでもいったい何回機上の人となったことか。設計や建築が進行中の仕事が多数あり、雑誌の連載もあり、大学の授業もあり、講演もあり、土日も休まずにひたすら仕事をしている中村さんには、その仕事をこなすだけでも海外を旅する時間は一分もないように思えるのですが、いつの間にか北欧にいたり、メキシコにいたり、中村さんの偽者が一人か二人いるのではないかと思うほど、中村さんは旅行中であることが多いのです。

 1995年から世界各地の住宅の名作を訪ね歩き、三十軒あまりを見学した旅の成果が、『住宅巡礼』とこの『続・住宅巡礼』にまとめられています。この本の主旨は名作住宅の名作たるゆえんを中村さんの文章、イラストレーション、写真で明らかにすることですが、今回もまた、隠れたテーマは「旅」なのだなあと感じます。旅のエピソードが実に魅力的で飽きさせません。

 中村さんがまだ大学一年生のとき、晩秋に軽井沢を旅していたときのこと。宿泊先のユースホステルを探し回っていて道に迷い、突然目の前に現れた山荘がありました。後に中村さんが師事することになる建築家・吉村順三氏の軽井沢山荘でした。その存在は知っていてもどこにあるのかは知らなかった山荘を前にして、旅の途中の中村さんはキツネにつままれたような思いだったようです。中村さんは若くして偶然の神様を味方につけていたというわけです。

「住宅巡礼」の第一歩がこの1968年にスタートしたことが、『続・住宅巡礼』の最終章である吉村順三の「森の中の家」に書かれています。その最後には吉村氏が亡くなる五年前に「森の中の家」のテラスでくつろぐ中村さんと吉村氏のスナップが掲載されています。この写真もどうぞお見逃しなく。

 それからもうひとつ。芸術新潮の12月号は「特集 建築家・中村好文と考える意中の家具」です。家具をめぐる中村さんのとっておきの「ひきだし」の数々が特別に公開された総力特集です。ぜひご覧になってください。

 ただ今の中村さんは、韓国の民家の取材でふたたび「旅行中」。今週の月曜日の夜にかかってきた電話では「こっちは寒いよ。夜は零下3度です」とのことでした。
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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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