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2003年5月15日

武満徹と縄文時代

Kangaeruhito HTML Mail Magazine 026
 武満徹と縄文時代

 次号は、建築家の中村好文さんと小さな家や小屋の魅力を考える特集を予定しています。現在その取材の真っ最中で、先週末は長野県北佐久郡御代田町にある音楽家・武満徹さんの作曲小屋を中村さんと一緒に訪ねました。

 一九六四年に建てられた別荘の離れのようなかたちで武満さんの作曲小屋があります。作曲小屋でピアノに向かう武満徹さんが撮影された写真をご覧になった方もいらっしゃるでしょう。実際に訪ねてみて、なるほどとわかることがいくつかありました。詳しくは次号の特集で中村さんの文章とイラストレーションでご覧いただければと思いますが、その時にもうひとつ話題になったのは縄文時代のことでした。

 取材を終え、おいしいコーヒーをいただきながら、夫人の武満浅香さん、お嬢さんの眞樹さんからうかがった話。浅香さんによれば、御代田町のある信州は、縄文時代のある時期に、日本で人口が二番目に多いところだったという研究があるそうです。武満さんの別荘があるあたりは標高約千メートル。背後に浅間山を望み、南側には佐久平の町並を遥かに見下ろし、そのつきあたりに南アルプスの雄大な景観が広がります。別荘のある周辺は高原野菜の畑と森ばかりで、人家もまばら。隣町の軽井沢に較べれば人口密度はかなり低そうでした。しかし、かつて縄文文化が栄えた場所と聞けば、なるほどと腑に落ちる気もします。

 武満さんの別荘がある地域では、縄文時代のムラなどが数多く発掘されています。水があり、食べ物が豊富であればたしかに人口も集中するだろうと納得。それにこれだけ眺めが良ければなあ、と思うのは、現代の都市生活者のセンチメンタルな感想にすぎないのかもしれません。しかし風景を感じる心は縄文人にも同じようにあったのではないか、とも思うのです。

 武満さんは生前、この土地についてこんな文を書いています。

「この三十年ほどの間に、多くの作品をここで仕上げたが、六七年に作曲した、邦楽器を用いた『ノヴェンバー・ステップス』は、この山落の自然空間に強く影響されたものとして、忘れられないものになっている。木々を渡る風の表情の多様さを音楽に移したいと考えて、いろいろ試行錯誤を重ねた」

 ちょうど、御代田町には浅間縄文ミュージアムがオープンしたばかりです。バブル時代に建てられた地方公共団体の博物館や美術館には奇妙なものが少なくありませんが、浅間縄文ミュージアムは建物(設計は仙田満氏)も展示もセンスが良く、気持ちのいい空間でした。ミュージアムにはこの地域で発掘された土器や鏃、土偶などが展示され、住居跡の発掘現場が細密に再現されていたり、当時の生活の断片もうかがい知ることができるようにもなっています。

 また、縄文の遺物が展示されている一階から二階に上がると、浅間山の火山活動の歴史がビデオとCGを使ってわかりやすく説明されています。この二階の大きな窓からも真正面に望むことができる現在の浅間山の偉容は、様々な時代の大規模な噴火によって刻々と姿を変えながら形成されたもので、縄文文化が栄えたのは、ちょうど浅間山の活動が小康を保っていた時代だったようです。

 また、浅間縄文ミュージアム開館記念の企画展として、9月7日まで「武満徹」展が同ミュージアム内で開催中です。武満さんが作曲に使っていたピアノや楽譜、原稿、愛用品なども展示され、貴重な映像資料も見ることができます。JR軽井沢駅からしなの鉄道に乗り替え、三つ目の御代田駅下車で徒歩約七分。夏休みの機会にでも軽井沢から少し足を伸ばして立ち寄られてはいかがでしょうか。またミュージアムに併設されているホールでは、武満徹展と連動したコンサートも予定されています(お問い合わせは電話0267-32-8922、URLはhttp://w2.avis.ne.jp/~jomon)。

 武満さんの作曲小屋の取材が縄文時代の暮らしにまで及んだ一日は大変興味深いものでした。五月の気持ちのいい風に吹かれながら、武満さんが、そして縄文人たちが、同じような風にあたっていたのだろうかと想像すると文字どおり時の経つのを忘れるような思いでした。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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