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2004年1月1日

宇野功芳 中野雄 福島章恭『クラシックCDの名盤 演奏家篇』(文春新書)

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宇野功芳 中野雄 福島章恭
『クラシックCDの名盤 演奏家篇』(文春新書)

 年末になると、映画や小説、演劇、演奏会などの「今年の収穫」「今年のベスト3」を識者が選び出す──そんな企画が新聞各紙に掲載されます。複数の選者が並んでいると、選び方にそれぞれの個性や好みが反映されて、選ばれた作品への興味はもちろん、「この人はこういう選び方をするのか」と頷いたり、ときには訝しがったりする愉しみもあると思います。

 本書はクラシック音楽の世界に深く関わる三人が、ひとりひとりの演奏家についての批評を気兼ねなく本音で開陳し、さらにその演奏者の名盤を選び出して最高点は五つ星で評価する、というスタイルのガイドブックです。

 そのなかでひときわ異彩を放つのは、三人のなかで一番若い福島章恭氏です。たとえば他の二人がそれぞれ五つ星をつける指揮者フルトヴェングラーについてはたったの二つしか星を与えず、「フルトヴェングラーの悲劇はTVの不倫ドラマのレヴェル」とこきおろし、「フルトヴェングラーの心の暗い波動が演奏に反映されて、私の心を汚そうと襲いかかる」と糾弾します。これが実に爽快で妙な説得力があるのです。

 難詰ばかりではありません。絶賛するときには天まで届けとばかりに全身全霊で誉めちぎる。三十歳で飛行機事故により亡くなったヴァイオリニスト、ジネット・ヌヴーについてはこう書いています。「ヌヴーは魂の芸術だ。(中略)ヌヴーの奏でるストラディバリの音はもはや楽器の音であって楽器の音ではない。楽器や肉体を媒体とした魂の声そのものだ。したがって、聴き手である私たちもまた、鼓膜や頭脳に頼らず、己が魂でヌヴーの感動を受け止めなくてはならない。ラジオの周波数を合わすように、自分の魂の周波数をヌヴーのそれに合わせよう」

 絶賛に関しては、宇野功芳氏も負けてはいません。たとえば同じくヴァイオリニスト、チョン・キョンファについての文章。「彼女の音の世界は絶対にマイクには入らない。これは断言できる。CDでチョン・キョンファを評価することは決してしてはならないのである。ここに挙げるCDはほんの参考記録だ。それでも他のヴァイオリニストよりすばらしい、という人がいれば、実演はその百倍も凄いとぼくは答えよう」

 中野雄氏の批評の読ませどころのひとつは、それぞれの演奏家にまつわるゴシップや舞台裏です。たとえば指揮者カール・ベームについては──「私が知己を得た十指に余る西欧の一流オーケストラ・プレイヤーで、巨匠(マエストロ)カール・ベームに個人的(パーソナル)な愛着の言葉を洩らした人は皆無である。『彼は平気で人を傷つけるんですよ。人の心をズタズタにするような言葉を、多勢の前でよく口にしました』。『彼は典型的な宮廷楽長(カペルマイスター)タイプの音楽家でした。そう、古いタイプの──。傲慢で、楽員に思いやりがなくて』。こんな言葉を、亡くなって二十年を経た今でも、ベームの本拠地であったウィーンでよく耳にする」

 とにかく本書は、名盤に印された星の数よりも三人の批評の言葉に断然興味を引かれるのです。何度となくあちこち頁をめくりながら、今度はどのCDを買おうか、と悩ませてくれるのです。そして誉めちぎることのパワーと効力についても学ぶところ大なのです。なりふり構わず、自分が偏愛するものを徹底的に誉めることは素晴らしい、と思わせる力があります。今の世の中にはもっと「誉める」ことがあってもいいのではないか、と思います。「誉め方読本」としても本書はおすすめです。
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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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