Webマガジン「考える人」

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知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

2004年1月29日

坂崎千春『ずっと、あなたのそばにいるよ』(リヨン社)

Kangaeruhito HTML Mail Magazine 063
 

坂崎千春『ずっと、あなたのそばにいるよ』
(リヨン社)

 父と息子、母と娘、父と娘、母と息子……親子関係とひとことでは言うものの、その組み合わせによって、その対立のしかた、親密さの度合いはさまざまな様相を呈します。そして、親子関係は心理学によって、あるいは文化人類学によって、社会学によって分析もされ、いくつかの類型に仕分けることも可能なのかもしれません。しかし当事者にとって、その親子関係はたった一度きりのことであり、外側から冷静に観察することも、分析することも、一方的に解決することもままならない、あざなえる縄のごときものなのです。

 坂崎千春さんはイラストレーションの仕事を中心に活躍されている方です。「考える人」の表紙にあるシンボルマークの椅子も坂崎さんの手によるもの。また、『金魚の恋』(新潮社)や『回文の国へようこそ』(中公文庫)、『片想いさん―恋と本とごはんのABC―』(WAVE出版)などの著作も発表されています。過剰な言葉を削ぎ落とし、描かれる線も必要最小限に抑制されて、息を深くし、微弱音に耳を澄ますような、独特の世界をつくりだしています。

 坂崎さんの描く世界に登場する人物や生きものは、内に秘めた思いは強いのに、実際の言動となると「言い出せない」「遠慮してしまう」性格の持ち主が多いようです。映画で言えば、たとえばエリック・ロメールの映画『友だちの恋人』に登場するような、相手の男性に自分の思いを告げられず、自宅に帰ってから泣き出してしまう女主人公のような「押しの弱い」タイプをさらりと描き出します。さらりとはしていますが、その淡い輪郭の向こうに、強い光のようなものがしっかりと見えてくる。そんな具合なのです。

 今回の絵本は、母と娘の物語です。しかし登場するのは、『金魚の恋』の時と同じように人間ではなく、クマの姿をした母と娘です。母親に密着する幼い頃、自我の芽生える思春期、そして初めての一人暮らし。折々の親子関係がひとつの典型のように描かれます。恐ろしい事件や、奇想天外な出来事がおこるわけでもありません。ところが、典型的な親子の物語が描かれながら、そこには、一回きりしか訪れることのない、かけがえのない、たったひとつの人生が見事にあらわれているのです。

 そしてクマの母と娘の親子関係は、何かの学問によってひとつの類型へと分類されたとしても、最後まで「腑分け」できずに残るであろう「こころ」の姿を静かにあぶりだします。その「こころ」には、男女の別さえも超えた何かから舞い降りてきたような、人間がその長い歴史のなかで、言葉以前の場所で無言のうちにバトンタッチし続けてきたような、そんな手触りがあるのです。

 人間はどこかさびしい。だからこそ、いとおしい。読んだ後の感動は、すぐさま人に伝えたくなるようなものではなくて、しばらくはじっと、ひとり自分のなかで静かに味わっていたくなる。そんな特別な物語です。
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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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