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2004年10月21日

トミー・アンゲラー文・絵 今江祥智・訳『すてきな 三にんぐみ』(偕成社)

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トミー・アンゲラー文・絵 今江祥智・訳
『すてきな 三にんぐみ』(偕成社)


 絵本の名作は数々あります。人それぞれに「これが私のいちばん」という絵本があるはずです。私にも理屈抜きに好きな絵本があります。何度読み返してもそのたびにニンマリしてしまうのが、この『すてきな 三にんぐみ』です。

 トミー・アンゲラー(他社の本ではウンゲラーとも表記されています)は、広告美術の仕事もしていた人であり、大人のためのちょっと毒気のある画集も発表してきた人でもあります。かつて植草甚一氏がそのアイロニカルなタッチをすっかり気に入ってしまい、喜び勇んで紹介していたのは、アンゲラーの描いた大人のためのエロティックなイラストレーションでした。これは子どもにはとても見せられない、きわどく怪しいものです。アンゲラーはこのように、単なる絵本作家というのではなく、なかなか一筋縄ではいかない、つまりはアーティストなのではないかと思います。

 そんなアンゲラーの、もっともアンゲラーらしさがシンプルに出た作品がこの『すてきな三にんぐみ』だと思います。絵本の主人公は、真っ赤な大まさかりなどを武器にする三人組のどろぼうです。帽子とマントに身を包み、きらりと光る目だけを出して、金品めあてに次々と馬車に襲いかかります。ほっとするようなやさしい絵本を見慣れた人には、かなりコワイ出だしであり、設定なのです。

 ところが、このおっかない三人組のどろぼうの運命を大きく変えてしまうのが、ひとりの小さな女の子なのです。三人組のどろぼうが襲った馬車には金品らしいものはなく、みなしごの女の子がひとり乗っていました。彼女はいじわるなおばあさんの家にあずけられる途中で三人組に襲われたのです。そして……彼女が三人組をどう変えてしまうかはこの本の面白さの大きなポイントなので、ここには書きません。子どもの無意識の力というもの、恐いもの知らずの力が、闘わずして「敵」を倒し、「世界を変えてしまう」とだけ言っておきましょうか。

 この恐いもの知らずの力は、ずーっとさかのぼれば、「赤ずきんちゃん」にまでたどりつくような気もします。つまり『すてきな三にんぐみ』の女の子は、絵本や昔話に登場する、無意識のパワーを持ち「悪」を転化させる女の子の原型のひとつなのです。大人は分別がつけばつくほど、こわいものが増えていきます。こわいものばかりになってくるとだんだんと身動きがとれなくなり保守化します。その身動きのとれなさ加減というものは、実は、このどろぼう三人組のなかにも巣くっていたのです。人をおそって金をうばうということが、何かを恐れ、何かから遠ざかり、何かにしっかりと蓋をするための「仕事」になってしまい、それ以外のことを想像することも実行することもできなくなってしまった三人組、なのではないか。そしてこの少女との出会いによって、さらに自分たちの胸の奥底に沈んでいた何ものかがすっくと頭をもたげた……のに違いないのです。

 私がこの絵本が好きな点はほかにもたくさんあります。たとえば、目だけがキラリと光るどろぼう三人組が、最後までその帽子もマントも脱ぐことなく、顔をあらわにしないこと。絵本全体をシンプルに強く演出する黒、赤、黄色の色づかいの素晴らしさ。そうそう、これも外せません。本書はアンゲラーのお嬢さん、フィービーちゃんに捧げられたものだそうですが、アンゲラーとフィービーちゃんのモノクロのスナップ写真が最後のページに掲載されていること。これがなんとも言えずいい写真なのです。

 本書が発表されたのは1962年。フィービーちゃんはもうすっかり大人になって、私と同じような中年になっているでしょう。お母さんフィービーは、この「すてきな 三にんぐみ」を自分の子どもに読み聞かせたりしたのでしょうか?
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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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