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2008年2月21日

ベスト100を選ぶ

Kangaeruhito HTML Mail Magazine 274
 ベスト100を選ぶ

 アメリカ大統領選の予備選の報道を見ていると、投票によって人を選ぶという行為にあれほど人々が興奮するのはなぜだろうと思います。人を数で選ぶなどということは人の価値を冒涜するもので本当はとるべきではない方法だ──と沈鬱な空気に沈むなかで投票が行われる──そんな状況も想定できないわけではないと思うのですが、あまり聞いたことがありません。古今東西の選挙で、投票とその結果に一定の透明性が保証されている国の場合には、かならずどこかでお祭りの気配が漂うことになります。

 次号(4月4日発売)の特集「海外の長篇小説ベスト100」の編集作業が進んでいます。ベスト100の選定は、「考える人」の常連執筆陣に加えて、翻訳家、批評家、小説家、研究者など様々なジャンルの方に「ベスト10」を選んでいただくアンケートをお願いし、応えてくださった方々のベスト10を数値化、その集計結果をもとに100位から1位までを決めようというものです。

 昨年の春号で「短篇小説を読もう」という特集を組みました。この時にもアンケートで「わたしの好きな短篇3作」というアンケートをお願いし、26人の方々から実に多様な回答が寄せられました。短篇小説を読むということが、それぞれの人にとってどこか特別に個人的な経験になっている、ささやかな秘密を打ち明けられたような面白さがあり、短篇小説というジャンルの魅力に具体的な光をあてることができたように思います。

 そして次には長篇小説の特集を、と考えていたわけですが、あの人にもこの人にも詳しくお話をうかがいたい、というアイディアはすぐにまとまったものの、問題はアンケートでした。どうせならここで思い切ってベスト100を選出してしまうのはどうか、と野蛮な気持ちがふくらんできたのです。最初に白状してしまうと、そのきっかけとなったのは昨年発売された「レコード・コレクターズ増刊 ロック・アルバム・ベスト100」(ミュージック・マガジン社)でした。HTML版メールマガジンの256号「考える本棚」でも触れましたが、この一冊にドンと背中を押されたのです。

「レコード・コレクターズ」の執筆陣が60年代から80年代までのロックの名盤を各人で25点ずつ選出し、その合計点でベスト100を選び出す、というのが「レコード・コレクターズ」のベスト100の選出方法です。この増刊号には、執筆陣によるベスト100以外にも、読者へのアンケートで選ばれたベスト100、60年代、70年代、80年代と年代別に選ぶベスト100、ゲスト選者によるベスト20も掲載されており、それぞれの項目で名盤の順位が上がったり下がったりする興味深いものでした。

 ベスト100に選ばれたレコードを自分のレコード棚における位置と較べてみることの面白さは想像以上に刺戟的で、しばらく聴いていなかったレコードをひっぱりだして聴いたり、当時は横目で見ていたまま買っていなかったものを手に入れて、聴いてみたらびっくりするぐらい良かったり、なんだかピンとこなかったり。「もうロックは終わった」とうそぶいてクラシックばかり聴いていたのに、「レコード・コレクターズ」の増刊のおかげで寝た子が起きてしまい、しばらくロックの名盤三昧の日々が続きました。

「レコード・コレクターズ」のベスト100は、60年代から80年代の30年間に限っての選出になっています。長篇小説というジャンルの成立をいつ、どの作品からと限定するのは難しいところですが、しかし千年以上におよぶ時間のなかに、気が遠くなるような作品数がひしめいているのは間違いない。19世紀以降の作品に絞る方法も少しだけ頭をよぎりましたが、そうすると「あの作品」も「この作品」も対象外となってしまう。それはないだろうとあっさり却下、時間軸を区切ることはやめにして、「海外の長篇小説」という言葉だけを頼りにするアンケート、とすることに決めました。

 今日現在のところ、120人を超える方々から回答が寄せられています。目標は100人でしたから、すでにそれを上回っています。毎日集計作業をしているので、ベスト100の順位は日々異動します。ベスト5あたりまでの入れ替わりがとくに激しく、ベスト10がどうおさまるか予断を許さない状況です。すでに書店の方からの問い合わせも複数寄せられており、「考える人」のベスト100と連動するブックフェアも独自に開催されるような勢いになってきました。

 当初は予定していなかったベスト100の結果を見た上での座談会も急遽ひらこうということにもなり、編集部はちょっと興奮気味の日々です。今日明日で台割を決定しなければならないのですが、特集の総頁数としては過去最大のものになりそうです。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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