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2008年9月4日

小林秀雄賞記者会見

Kangaeruhito HTML Mail Magazine 302
 小林秀雄賞記者会見

 先週の木曜日に、第7回小林秀雄賞の選考会がひらかれました。新聞などでも報じられているとおり、受賞作には多田富雄さんの『寡黙なる巨人』が選ばれました。

 以前にメールマガジンでも触れたことがありますが、小林秀雄賞は候補作が非公開です。候補となっている著者にも事前にそのことをお知らせしていませんので、選考会で受賞作が決まったところで、賞を受けてくださるかどうかを確認する連絡をさしあげることになっています。この連絡が、著者に初めてコンタクトをとる瞬間になるのです。

 事前に候補になっていることをお伝えしていないのに、選考会の当日、受賞が決まったところで、すぐさま本人に連絡をとらなければなりません。これはかなりの綱渡りで、選考日が近づくにしたがって連絡担当者は頭のなかでああでもないこうでもないとシミュレーションをしてはソワソワすることになります。

 たとえば携帯電話を持っていない方が受賞したとして、当日の夕刻から観劇やコンサートにでかけてしまっていたら、どうすればいいのか。新幹線に乗っていたら。飛行機に乗っていたら。選考会が終わるのはだいたい午後6時すぎです。仕事場から自宅に移動している途中、というような可能性もかなり高い時間帯です。しかしご本人が賞を受けてくださるという確認をとることができなければ、受賞作を発表することはできません。

 第3回受賞者の佐野洋子さんは、携帯電話に連絡を入れたとき、友人と青山で買い物をされている最中だった、と記憶しています。第4回受賞者の茂木健一郎さんも都内にはいらっしゃらなかった。それでもそれぞれに連絡がとれ、賞を受けてくださることになり、しかもそのまま記者会見場にかけつけてくださることになったのは、僥倖だったと言うべきでしょう。

 今回の受賞者の多田富雄さんは受賞作で詳しく書かれているように脳梗塞による障害があり、移動には車椅子を使い、会話もトーキングエイド(キーボードの操作によって言葉を伝える機器)によって行われます。連絡担当者は、当日の記者会見にお越し願うのはむつかしいのではないか、と内心思っていたでしょうし、事務局もそのように考えていました。受賞が決まってご自宅に連絡を差し上げたとき、多田さんは入浴中のご様子でした。奥様を通じて賞を受けてくださることがわかったとき、連絡担当者がさらに記者会見のことを「もしよろしければ」とおたずねしたら、記者会見場までお越しくださることになったのです。

 それから約一時間後、選考会および記者会見場となっているホテルオークラに多田富雄さんご夫妻が到着し、記者会見が行われました。蝶ネクタイをしめ、仕立てのいいスーツを着て、清潔に整えられた髪型であらわれた多田富雄さんが、トーキングエイドを使って記者の質問に答えた一部始終は、その場にいたすべての人々の心をとらえてはなさない特別なものとなりました。

 これまで「考える人」誌上での小林秀雄賞決定発表の記事は、受賞後に日をあらためて行われるインタビューを中心に、選評、受賞作抄録を掲載してきました。今回は、当日の記者とのやりとりがあまりに深く強い印象を残したので、そしてこの記者会見がこのままどこにも記録として残らないのはあまりに惜しいと思い、記者会見をそのまま掲載できないかと昨日から考え始めています。選考委員を代表して授賞理由を話してくださった橋本治さん、質問した新聞記者の方々、多田富雄さんご夫妻(奥様にも質問があり、鮮やかな答えがありました)のご諒解を得て、なんとか次号での掲載を実現させたいと考えています。

 皆さんにはこのときの会場の雰囲気を少しでもお伝えしたく、今回は一枚の写真を御覧いれることにしましょう。詳しくは10月4日発売の次号をいましばしお待ちくださいますよう。

 
「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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