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2009年5月14日

『ウンベルト・サバ詩集』須賀敦子訳(みすず書房)

Kangaeruhito HTML Mail Magazine 338
 

『ウンベルト・サバ詩集』須賀敦子訳(みすず書房)

 おとといの火曜日は、梅雨時のような湿気をたっぷりとふくんだ一日でした。見上げると木々の若葉ものびのびと葉をひろげています。ほんのひと月ぐらい前はまだ、おそるおそる顔を出しているようだったのに、いまはもう自信満々のいきおいを感じます。

 昨日は夜がふけるにつれて、空気が乾きはじめて、風が冷たくなっていきました。どこがどう鳴っているのかわかりませんでしたが、冬の日の風のうなりのような音が空から降りてくるのが聞こえました。

 今朝は静かです。自然には自然の摂理がある。寒冷前線がどのようにうまれて、どのように動くと、その場所の空気がどうなっていくのか。私たちはその仕組みを知っています。それでもじっさいに乾いた冷たい空気を感じると、その仕組みは消えて、言葉では説明のできない感覚につつまれることもあります。

 夜がふけてから風呂に入り、そのまま寝つけずにいた昨夜、ひさしぶりに手にとってぱらぱらとページをめくったのが『ウンベルト・サバ詩集』でした。「三つの都市」という詩のなかにある、「生きることほど、人生の疲れを癒してくれるものは、ない」という一節をご存じの方も多いと思います。須賀敦子さんの著作『トリエステの坂道』が、ウンベルト・サバというなじみのなかった詩人を私たちに伝えてから、もう十年あまりの歳月がたちました。

 ウンベルト・サバも須賀敦子さんも、もうこの世から遠くへ旅立っています。それでもこの詩集の言葉を、一行一行読んでいくと、旅立った先は、遠くではないとわかります。それは驚くほど隣にある。詩を読んでいるときには、彼らは何よりも近いところにいる。息づかいのようなものさえ感じるのです。

 遅くなってから眠りについて、けっきょく今朝まで一度も目が覚めることはありませんでした。朝になって見上げた窓の外に広がる空は、きのうの空とは何から何までちがうように見えました。そしてもう一度、読みなおしてみたウンベルト・サバの詩をここにご紹介します。

 
丘の眺め

春が来てすぐそこに見える
淋しい丘のむこうになにがある?

すこし低まり、またほんのすこし登る、
そのあたりで、思いなしか窪んでいるような。

まるい肩のあたり、ゆったりした腰のあたりに
白雲がまつわる丘もあるが、

こっちの丘のシルエットはもっとすっきりしていて、
高いところにあるぶどう畑の縁の

支柱が青くなっていたり。ガラスの破片が
きらきらして、太陽がいっぱいにかがやいて。その

うしろには、だれもいない砂浜の海みたいに、
神様の目が、無限がひろがっている。

 
(『ウンベルト・サバ詩集』須賀敦子訳 より)
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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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