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2009年9月17日

ジュゼップ・カンブラス著 市川恵里訳 『西洋製本図鑑』(雄松堂出版)

Kangaeruhito HTML Mail Magazine 356
 

ジュゼップ・カンブラス著 市川恵里訳
『西洋製本図鑑』(雄松堂出版)

 10月3日(土)発売の「考える人」の特集は、「活字から、ウェブへの……。」です。ウェブという新しいメディアから投げかけられた光のもとで、書物に代表される、紙に印刷された媒体の魅力をもう一度見直してみたい、という特集です。

 グーテンベルクが約550年前に発明した活版印刷術によって最初に誕生した本は「42行聖書」と呼ばれる大判の聖書でした。持ち歩くには大きすぎる二つ折り判の聖書は、のちにルターが聖書を俗語(=ドイツ語)訳した上で、造本も八つ折り判へと小型化し、人びとがふつうに持ち歩くことができ、ふつうに読むことができるようなものへと生まれ変わりました。小ぶりになった聖書は、宗教改革のうねりをより大きなものへと変える原動力になったはずです。

 本というメディアを、書見台や祭壇の上からおろして、人びとのてのひらへと移していったとき、本はてのひらに馴染むものへ、繰り返し読むことのできるものへと造本・装幀を改良させ、洗練させていきました。活字という金属が、紙や革の素材と出会うことによって、わたしたちがいま手にしている、「書物」というかたちがととのえられていった、というわけです。

 本書は、グーテンベルク以来の造本装幀のしくみ、つくられてゆく工程、技術、その道具たちをカラー写真によってわかりやすく伝えます。人間の知恵と手作業が織りなす造本装幀の世界は、もっとも洗練された手工芸のひとつといってよいものだということが見てわかる本なのです。

 たとえば今はめったに見ることがない金つけという技法──本を机の上に立てて置いたとき、本文の頭頂部の平面(あるいは指でさわる小口の部分)に金箔を貼る技法がありますが、個人的にはご大層な成金趣味のような気がしてあまり好きなものではありませんでした。しかし本書には、こんな説明が書いてあり、「へえ」と思いました。

「本全体を美しくするばかりでなく、中身の保護にもなる。紙の細かい孔を完全にふさぎ、埃の侵入を防ぐ効果がある」

 金箔を貼ったあと、その乾き具合を確認する作業についての記述も、なかなか味わい深いものがあります。

「乾き具合を確認する方法がいくつかある。(中略)金箔の上に息を吹きかけて、表面にできた曇りが消えるまでの時間を見る方法もある(端から徐々に消えていくようなら乾いているが、消えるのが遅い場合はもう少し待つ必要がある)。一度ではなかなかわからないので、何度かやってみるといい」

 書店の棚から函入りの本がどんどん姿を消してゆき、背継ぎ表紙も、地券表紙も、フランス装もめったに見かけなくなりました。ルターの聖書がもたらしたものを考えれば、本がより手に取りやすいものに変化してゆくことも必然のながれだと思います。うしろばかりふりかえっていてもしかたない、と思うのも確かです。

 しかしおそらく今後は、手に取りやすさ、コストを考えたとき、紙のメディアがウェブをうわまわることはじわじわと難しくなっていくかもしれません。アマゾンがアメリカで販売している「キンドル」のような読書用端末が今後さらに普及して、日本にも上陸するようであれば、かえって紙の書物ならではの魅力をあらためて見直すいいチャンスになるのではないか。

 私たちが550年にわたってつきあってきた「書物」の魅力を再発見するためのヒントが、本書にはたくさん詰まっています。
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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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