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2009年11月19日

冬眠

Kangaeruhito HTML Mail Magazine 365
 
 冬眠

 11月もなかばを過ぎてしまいました。今朝の東京は真冬のような寒さで、昨日はコートなしでも大丈夫でしたが、今日はコートを着ないわけにはいきません。午前中から冷たい雨が降りはじめ、いよいよ12月が近づいてきた感じがします。

 12月が近づけば、「やらなければいけないリスト」を書き出したりチェックしたりする頻度が増えてきます。私は最近、グーグルメールのなかにあるTo Do listを使って「今週中にこれをやらなければ」リストを書き出すことが多いのですが、そろそろ「12月中に片付ける必要のあるもの」リストも平行してつくっておかなければ、と思いたちました。

 年賀状(これは数年前に廃止)だの、手帖やカレンダーだの、こまごまとした買わなければいけないものがあり、数年来の課題だった机のまわりの片付けも今年こそは取り組まなければなりません。今年は免許の更新も、車検もある。リストを書き出したところで、気ばかりがせいてしまい、かえって落ち着かない気持ちになってしまいました。

 一年のうちでいちばん好きな季節の頃である12月を、のんびり過ごす日はいつ来るのかなあと思います。でもこういう慌ただしさがあってこその12月なのか、とも思い直してみたり。

 うちで飼っている生き物はミドリガメが一匹だけなのですが、数年前までは水槽にヒーターを入れていなかったので、11月もなかばを過ぎて気温が低くなってくると、水槽にしきつめられている細かい川の砂をザリッ、ザリッ、ザリッ、ザリッと掘り始め、冬眠の準備に入ろうとする動作をよく見せていました。

 ところが、昼間は日差しさえあれば部屋はポカポカしてきますし、外に較べれば室内は断然あったかい。そうなってくると、今度は石のかたちをした日向ぼっこ用の置物の上にのぼって、足をのびのびと後ろへのばし、足の甲を団扇のように広げて、太陽の光をのんびりと浴びている。こうなると冬眠作業はお預けです。

 水槽にヒーターを入れるようになってから、ミドリガメは冬眠に入ろうとする動作をまったく見せなくなりました。それまでは、冬のあいだぐっと落ちていた食欲も旺盛なまま。ただ、ミドリガメを冬眠させたことのある人に聞いたところ、ヘタに冬眠をさせると、そのまま死んでしまうこともあるそうです。冬眠はミドリガメなら誰でも簡単に入ることのできるものではない、ということらしい。

 人間も眠りに入る直前は体温が上がります(幼児を抱きかかえていると、その様子がはっきりとわかる)。風邪をひいて熱のある人の体温も、日没の頃に体温が上がる。「眠る」という行為そのものは生命維持にどうしても必要なものではあるけれど、眠りに入る瞬間には、目には見えないリスクがある程度ふくまれているのではないか、という気がします。

「2001年宇宙の旅」で、遥か遠い木星に向かう宇宙船に乗り込む研究者たちは、専用のカプセルにミイラのように横たわって人工冬眠のなかにありました。しかし宇宙船のすべての機能を統括するコンピュータHALの反乱で生命維持装置を切られてしまい、人工冬眠していた研究者は全員死亡します。人工冬眠しているあいだは、生命ぜんたいを機械とコンピュータに預けてしまい、自力では何も反撃できないわけですから、これほどおそろしい状態はない。

 ほ乳類の冬眠も興味深いものがあります。たとえばシマリスの場合、ふだんは37度ある体温が6度ぐらいまで下がり、心拍数も1分間に約400回あったものが7~8回ぐらいにまで減ってしまうそうです。冬眠に入るシグナルは、肝臓から分泌されているハイバネーション・プロテインというタンパク質が寒い季節に入るとなぜか減少し、それが合図となって冬眠に入る、のだそうです。春になれば今度はハイバネーション・プロテインが増加して、目が覚めてゆく、そういうシステムが働いているらしい。

 だとすれば人間も、理論上では冬眠に入ることが可能なのかもしれません。でもやっぱり、こわいかな。もし実現したとしても、とりあえず私は人工冬眠を希望しないでしょう。しかし、冬眠的な冬を過ごす、ということはぜひやってみたいものです。活動を停止して、全面的な休息を4ヶ月ぐらいとる。冷たい雨のなかを歩きながらそんなことを考えました。
 
「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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