Webマガジン「考える人」

シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

2017年3月23日

最終号を校了に(No.712)

Kangaeruhito HTML Mail Magazine 712
■[特集]ことばの危機、ことばの未来 ■最新号目次 ■編集部の手帖
 最終号を校了に

 3月21日で、次号をすべて校了にしました。泣いても笑っても、これが「考える人」の最終号です。「Webでも考える人」は今後も継続しますが、印刷物としての「考える人」には、もう次はありません。
 
 
 校了の間は、最後のチェックを終えた順に、記事単位で印刷所に手渡していくのですが、最終日まで残っていたのは、次号の目次(メニューに間違いは禁物ですから、この順序は不動です。守りの最後列にゴールキーパーが控えているようなもの)に加えて、今回は創刊号からの「考える人」15年分の「総目次」がありました。
 
 年間4冊で総計60冊。決して多いわけではありませんが、並べるとやはり壮観です。最初期から携わってきた編集スタッフや、ずっと雑誌のエディトリアル・デザインを担当してくれた島田隆さんらにとって、歩んできた道のりを俯瞰するのは感無量だろうと想像します。途中参加の私にしても、表紙を見るだけでさまざまなことが思い出され、文字を追い始めると、ついつい傍らの雑誌のバックナンバーに手が伸びます。ああ、そうそう、この時はそうだったよなぁ。この文章は読み応えがあったなぁ……。
 
 きっと愛読して下さった方々にも、それぞれの「目次」が喚起されてくるだろうと思います。「総目次」の扉ページには、短いリード文を書きました。
 
<人の一生が15年で終わるならば、
 それは「夭折」と呼ばれるのでしょう。
 雑誌の場合、15年という寿命は、長いのか、短いのか。
 2002年、サッカーのワールドカップが
 日韓で共同開催された年から、
 米国にトランプ大統領が誕生した今年まで、
 「シンプルな暮らし、自分の頭で考える力」を
 大切にしながら、時流とは即かず離れず、
 「考える人」は歩んできました。
 60冊の記憶とともに、この遺伝子が生き永らえんことを!>
 
 とりわけお世話になった養老孟司、池澤夏樹、今森光彦の三氏には、最終号に寄せたコメントを頂戴しました。特に注文もしなかったのですが、期せずして、私の書いた前口上と、似たようなメッセージを下さいました。少し胸が詰まりました。
 
 「最後の晩餐」に何をふるまうかは、編集部の腕の見せどころ。知恵を振り絞って考えなければなりません。流儀は多種多様であるにせよ、基本はその雑誌らしいスタイルで、単にノスタルジックではなく、感謝をこめて前向きの姿勢を読者に示すことでしょう。休刊は「刀折れ矢尽きて」討死するわけではありません。“plain living & high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)”を掲げたこの雑誌が大切にしてきたものを、きちんと読者に届け、残像として胸に刻んでいただくことでしょう。
 
 一方で、今回は休刊そのものが突然の決定だったので、次号から新連載を始める予定だった方にはお断りせざるを得なかったり、夏号にスタンバイしていただいた方には前倒しでご協力いただいたり、こちらの事情でずいぶん勝手を申し上げました。皆さん、ご快諾くださり、心より感謝申し上げる次第です。
 
 そんなこんなで思い出したのは、工業デザイナーの榮久庵憲司さんの『幕の内弁当の美学』(朝日文庫)でした。榮久庵さんは日本人の美意識やものづくりの原点を「幕の内弁当」の成り立ちに見出します。そこに現われた美意識を「まにあわせの芸術」と規定し、「時と場、材料の入手の難易、コストとのみあい、そしてタイミングといった条件に、時間的に、質的に、量的にまにあわせる術」だと述べています。
 
 以前、加藤文俊さんの『おべんとうと日本人』(草思社)という本をこのメールマガジン(No.671)で紹介した際に、お弁当作りのコツを敷衍しながら、次のように書きました。
 
<日常生活では予期せぬことが起こります。思い通りにことが運ばないケースのほうが多いくらいです。その時に、臨機応変に身を処して、「むしろ創意工夫の契機だととらえること」こそが重要なのだと本書の著者は語ります。「カワイイもの・ちいさいものに対する愛好精神と、それらを巧みに組み合わせようとする『編集力(臨機応変の術)』があれば、多くのことは乗り越えられるはずだ」というのです。
 われわれが日常的に行っている雑誌編集の現場も、これと瓜二つの光景を繰り広げています。限られたページ数の中にどれだけ「異質なものを貪欲にとりこんで、それぞれの特性をすべて活かす」かに心を砕いています。そして、想定したシナリオの変更に「まにあわせ」の判断で対処しながら、結果として、作り手の思いや愛情を詰め込んだパッケージを読者のもとに届けます。それを味わい尽くしてもらいたいと願いながら――>
 
 
 最終号を「おいしかった」と喜んでいただけるかどうかは、もはや祈るばかりです。4月4日の発売です。是非お手に取っていただければと願います。
 
 4月になると、部署の名称が変更され、人事異動も行われます。それに向けて、私はデスクまわりや、棚の整理をいたしました。編集長就任以来、何しろ6年9ヵ月分の“遺産”や、これから手がけようとしていたテーマの資料が溢れていました。どこから着手するか、気が遠くなるような思いでしたが、ようやくメドが立ちました。おかげで爪は傷み、指はささくれ立ち、腰、肩は完全に悲鳴を上げています。「断捨離」の鬼と化すほどではありませんでしたが、それでもbeforeとafterを見比べると、「おおっ」と驚きの声が上がるでしょう。
 
 
 ……とまぁ、連日の“荒行”が続いたこともあり、きょうは短く切り上げて、ひと休みさせていただきます。最終号の発売に合わせ、いくつかの書店でトークイベントやフェアを開催したいと思っています。次回のメルマガでは、その予定もお知らせしたいと思います。
 
 
「考える人」編集長 河野通和(こうのみちかず)
 



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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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