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2018年3月15日

闇の中をひとり行く(No.760)

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不定期掲載中の村井さんの入院日記第3弾がいきなりトップに! 病を得て精神の波も不安定になりつつあった村井さんを待ち受けていたのは、激痛カテーテル検査……!
人気社会学者・岸政彦さんの連載が引き続きランクイン。なんでもなさそうな日常でも、鋭い観察眼と洞察力で切り取られると、ぐっと鮮やかになる味わい深い日記です。
伊藤比呂美さんの『説経節』を中心に、〈シロウトにしかできない現代語訳を、おなじシロウトである読者がたのしむ〉昨今の風潮を読み解きます。
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3月5日(月)
人間にとって痛みとは何かを問う長編小説『ペインレス』が4月末に刊行となる天童荒太さんが来社、「」に掲載する単行本担当編集者のインタビューに付き添う。

この小説に出て来る登場人物は、天童さんの小説の中でも極端な変わった人間たちばかりである。かなりの新境地なので、『家族狩り』のファンは喜ぶ気がするが、『永遠の仔』『悼む人』しか読んだことのない読者はびっくりしてしまうかもしれない(もっと読めば、根っこは一緒であることがわかってくる)。

現代社会の抱える問題や方向性を、露悪的なまでに、なるべくそのままのかたちで取り出してみせるのは、天童さんならではの小説世界だと思う。「悼み」から「痛み」へと向かっているのだ。

アカデミー賞。今回は作品賞以外の主要な賞はかなり前評判通りの結果だったようですね。主演女優賞も予想通り、『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンドだった。

彼女、『ピアノ・レッスン』で同じくアカデミー主演女優賞をとったホリー・ハンターとルームメイトだったそうだ。1994年にまずホリー・ハンターが受賞し、1997年に『ファーゴ』でマクドーマンドが受賞、で、今回は二回目の受賞。二人ともすごいな。

14年前のドキュメンタリー映画『デブラ・ウィンガーを探して』でフランシス・マクドーマンドはこんなことを言っていた。

「私は絶対整形しないとホリー・ハンターと決めたの。なぜなら私はいま44歳。10年後には54歳。みんなが整形したら、10年後に54歳相応に見える人はいなくなる。そしたらその役は全部私にまわってくる。」

その通りになった。

3月6日(火)
昼の打ち合わせで、滝口悠生さんと新大久保のタイ料理店「バーン・タム」にはじめて行く。「新潮」編集部の杉山くんや田畑くんに教えてもらった店で、タムさんというタイ料理界の伝説のシェフがやっている店らしい。

なるほど。メニューの数が多くて、変わったものがたくさんある。生ソーセージ。ナマズの炒めもの。ピータンと鶏ひき肉のガパオ炒め。昼の新大久保は異国で旅行している気分になってリラックスした。

3月7日(水)
角幡唯介さんの『極夜行』を夢中になって読む。

ひとりで太陽が昇らない冬の北極を四か月旅をする冒険ノンフィクション。角幡さんの文章は、小野正嗣さんに絶対読んだ方がいいよと激しく勧められてから読むようになった(そういえば小野正嗣さん、4月8日から「日曜美術館」の司会に。驚いた)。

角幡さんの作品の中でもこれは代表作のひとつなのではないだろうか。闇の中を一人で旅することが、角幡さんの人生そのもの、また妻が我が子を産む人間の誕生と響き合うように描かれていて全篇が深い思索に彩られる。実際には当時のことを思い出しながら書いているだろうに、おそろしく文章に臨場感がある。怖くなる。ちょっと忘れられない作品だ。

3月8日(木)
アカデミー賞で長篇ドキュメンタリー賞を受賞した『イカロス』(ネットフリックス)を見る。

傑作というより怪作。監督のブライアン・フォーゲルはアマチュアの自転車レーサーらしい。ランス・アームストロングのドーピング事件に興味を持っていた彼は、アームストロングが如何にドーピング検査を切り抜けたかに興味を抱き、自らドーピング服用者になり、自転車レースに挑むことでドーピングを巡る自転車競技界の闇を覗こうとする。

ロシアの反ドーピング機関所長の研究者グリゴリー・ロドチェンコフを紹介された彼は、協力体制をつくることで、次々と結果を出していくが、ちょうど二時間の映画の中ほどのところで、ドイツの公共放送で例のロシアの組織ぐるみのドーピング疑惑が報じられる。グリゴリーとフォーゲルはロシア国家から抹殺されるかもしれないと身の危険を感じ、国外脱出を図るという映画。

つまり、この映画、ロシアのドーピング疑惑についてのドキュメンタリーとして始まったわけではないのだ。たまたま付き合っているうちに、グリゴリーが亡命せざるをえない状況になり、カメラの前で彼が告白をはじめる。

スーパーサイズ・ミー』のつもりの軽いノリで撮っていたら、いつの間にか『シチズンフォー スノーデンの暴露』になってしまったというような偶然のうんだ奇跡の一作。この作品の作者は誰だ?

3月9日(金)
当サイトで「考える猫のその日暮らし」の連載をしていただいているイラストレーター大高郁子さんの展覧会に出かける。『久保田万太郎の履歴書』出版を記念して、人形町の「VISION’S」にて(17日(土)まで)。

朝井まかてさんが「“ひとり虫”の万太郎。淋しくてダメで、愛おしい。」と帯を書いているが、見ていると人間味あふれる困ったこの文人がだんだんとかわいく思えてくる。明治時代の地図を元に書いたという大きな浅草の絵が圧巻だった。浅草十二階も隅田川の屋形船も描かれている。活版印刷で刷ったカルタも展示してあって、一緒に行った編集部のSさんが買っていた。
 
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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長 松村 正樹


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