シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

Superfly ウタのタネ

2021年が始まりました。昨年が特殊な年だったので、今年は心が落ち着けるような明るい年にしたいですね。
私にとっても昨年は今までとは違う特別な一年となりました。
こうしてエッセイを書くようになって、日常で考えてることを文章で表現することで色んな人と繋がれたように感じましたし、オンラインライブでは、いつもと違う環境でのライブを今までと同じように楽しんでもらうにはどうしたら良いのだ!? と想像力を使って温かいライブを作ることができました。
不思議なことに、肉眼で見える距離、感じられる距離にいないのに、私は多くの人と繋がったような気がしています。もちろんインターネットの存在があってのことかもしれませんが、今までよりも、心の繋がりを近くに感じています。

生活が変わると自分の心境までも変化・進化するものなんだなぁと興味深いです。
色んな感覚が変わりましたが、私の中で大きく変わったことの一つに、「アレルギーが治った」ことがあります。

ちなみに、私は今のところ体に関してのアレルギーはありません。数年前の春に鼻炎のような症状が続いてしまって、ついに花粉に負けたか、これから先、音楽活動も大変になるな……とあれこれ先のことを想像しつつ恐る恐る病院で検査したところ、花粉もなければ食べ物アレルギーもゼロ、ただの風邪でした。アレルギーゼロというのは結構珍しいらしく、病院の先生も驚きながら半笑いでしたし、私自身も、結果を聞くのが怖いくらい心配していたので軽くズッコケました。分かってはいたけど、やはり驚異的な健康体。

体はなんともない私が、昨年回復したアレルギーとは、心のアレルギーです。
名付けて「影響アレルギー」。

私は人から「影響される」ということに、ものすごく警戒心があったのです。自分の中に他者からの刺激が入ると「きたーーーー!!!!」とアラーム発生。「影響」を察知した瞬間に、頭の中で「これは受け入れて良い!? 悪い!?」という裁判が始まり、散々審議したのちに受け入れても大丈夫なものだけ取り入れるようにしていました。

おそらくこういった症状が出るようになったのは、デビューしてオリジナリティについて考えるようになってからです。それまではどちらかというと、とても純粋というか、単純で、周りの人の良いことにも悪いことにも影響されやすく、吸収しすぎて自分の意志や感性がなんなのか分からなくなるような性格でした。特に悪いことでもないけど、なんとなくそんな自分が好きになれずにいました。

芯のあるアーティストになるためにも、自分の感性ってなに?? はっきりと意見を言わなければいけないけど、そこに強い意志はある?? と自問自答も厳しくなってしまいます。自分の軸がぶれないように、できるだけ周りの刺激を遮断し、自分の世界の中から湧き上がるものを曲にするようにしていました。何かに直接的に影響されて、消化できてないまま曲を作ったら、オリジナルだ! とは主張できないし、胸を張って活動できないよなぁ……。私の影響アレルギーは日に日に悪化していったのでした。
苦い葛藤の日々でした。

ところが昨年、自宅で過ごす時間が長くなり、人に会うことが少なくなると、なんとなく人の影響が恋しくなってきたのです(やっぱり単純)。
その頃ハマっていた読書も、最初は自分で選んだものを楽しんでいたけど、何冊か続くと、なんとなく自分が普段読まない本を読みたくなりました。そこでふと、自宅に積読してあった『楽園のカンヴァス』という小説を手にとってみたのです。

これは私の意志で選んで買った本ではありません。
この本との出会いは、「一万円選書」です。本屋さんが一万円分のオススメの本を選んで届けてくださるというサービスに応募し、かなりの倍率をくぐり抜け、マネージャーが見事当選。そしてなんと私にその権利を譲ってくれ、届けられた本の中に入っていた一冊。

美術がテーマの小説なので、普段から絵画に触れる機会のあまりない私にはなかなか手が伸びませんでした。自分の好きな絵がどんな絵なのか、全く分からなかったからです。だけど、ページをめくるたびに小説の世界観にぐんぐん吸い込まれます。ミステリー要素もあって面白い! ストーリーも最後まで素晴らしいのですが、私はその小説の中に登場する一人にとても興味をいだいたのです。アンリ・ルソーです。小説を読むまで、ピカソにも大きな影響を与えたと言われる彼の存在を知らなかったので、ルソーという人の絵はどんなものなのかインターネットで見てみると、「私の好きな画家はこの人だ!!!」と一瞬で心を奪われてしまったのです。一言で言うと、ヘタウマだと思うのですが、そこには純真な心、意志の強さ、不器用さ、ユーモア……隠しきれない人間性が滲みでているような気がしました。これこそアートだ! と、一日も早く展示してある美術館に見に行きたいと思うものの、そのときは一度目の緊急事態宣言中で身動きが取れず、落ち着いたらルソーの作品がたくさん収蔵されているポーラ美術館に行くんだ! と心に決めていたのです。

それから数ヶ月後、嬉しいハプニングがありました。ファンクラブの会報誌の特集で私の好きな本を紹介するという取材があり、もちろん『楽園のカンヴァス』を紹介。早くポーラ美術館に行きたいんですよね~と話してると、その会話を覚えていてくれた編集の方が、次回の会報誌の特集で、ポーラ美術館に取材に行きましょう! と企画してくださったのです。しかも学芸員の方が絵の説明までしていただけるとのこと。ルソー初心者に、いきなりすごい展開。

取材当日は早朝に家を出発して、箱根へと車で向かいます。まるで大人の修学旅行気分で楽しい。
山の天気は変わりやすいので道中で濃霧に遭遇し、身の危険を感じましたが、それもなんだか楽しい。
霧をくぐり抜ければ、美術館は周りの木々たちに守られるように静かに佇んでいました。空気が澄んでいて清々しい。あぁ来てよかった~と早くも幸せを噛み締めていると、温顔のスタッフの人たちが館内へと案内してくださいました。みなさん、アートを心から愛する素敵な人たちばかり。かなり良い感じのオタクです(笑)。この日は、絵のお話だけ聞けるのかと思いきや、美術館の建築へのこだわりや、企画展が想像以上に時間を費やして開催されていること、学芸員の研究がまるで科学者のようであることとか、美術の世界のプロフェッショナルなお話をたくさん聞かせていただいたんです。未知の世界に私の好奇心はいつになくギラギラしてる! ちょっと前まで影響されることを怖がっていた私が、今、ものすごい影響されてる! アレルギー反応も全くなく、むしろ吸収しまくっているではないか!(笑)

この時点でだいぶ充実していましたが(おそらく2、3時間は経っている)、まだ美術館に来て一枚も絵を見てません(笑)。ついにメインイベントである絵画鑑賞です。アンリ・ルソーの絵はすぐに私の視界に飛び込んできました。やっと会えた~! やはり生で見ても純真な心や不器用さを感じる。そんな隠しきれない個性に、ついつい微笑んでしまいます。この日、私が新たに見つけた感動は、「描きたい」という強い気持ちを感じたことでした。なぜならば、カンヴァスの中にはかなり緻密に描いているところと、そうでないところがあったんです。そのデコボコした感じがとても人間的で、それがかえって伝えたいことが浮き上がって見えました。ものづくりをしてると、多くの人に伝えたいと思うあまり、ついつい分かりやすさを意識しすぎて、綺麗にまとめすぎてしまうことがあります。でも、ルソーの絵を見て、「そのままの自分(感性)でいいんだよ」と頭を撫でられたような気持ちになったのです。

ヘタウマなので世間からは酷評されることの多かったルソーですが、自分は天才だと信じていたようです。スタイルを変えることなく描き続け、その強い信念が世界中の誰もが知ってるピカソに大きな影響を与えることになるなんて……。信じる気持ちって最強。

この体験から、私は肩の力が抜けたような気がします。自分の感性を大切に日々生活していると、色んなことがポジティブに転がるのです。アンリ・ルソーから、とても素敵なメッセージをもらいました。

こんな風に影響アレルギーを克服した私ですが、昨年を振り返ると、誰かに影響を与えてもらってばかりでした。
今回のルソーの出会いも、「一万円選書」の中に入ってなければ、なかったかもしれない。会報誌の企画でなく、一人で美術館を訪れたとしたら、スタッフの方のアート愛に気づけなかったかもしれない。前回のエッセイで書いたボイトレの先生も、友人の紹介。ボイトレをしていなかったら、年末に紅白歌合戦で自信を持って歌えてなかったかもしれない。昨年から、始めたこのエッセイもお誘いを受けたもの。最初はちょっと不安だったけど、書くことだけではなく、自分の考えを話すことまでも楽しくなって、色んな人と深く繋がれたような気がしています。

なんて受け身な一年間! 何一つ自分からアクションを起こしていません(笑)。
でも、今はこれがとてもポジティブなことだと胸を張れます。

外の世界を遮断して自分だけで何かを追求するのも楽しいけど、誰かに刺激されながら過ごす毎日も、どこまでも続く地平線のように広がりがあって感動する。
今年もまた、自分一人では辿りつけないようなワクワクを探しに、色んなものに影響されてみようと思っています。

私もまた、良い影響を届けられる人であるために。

この記事をシェアする

MAIL MAGAZINE

「考える人」から生まれた本

もっとみる

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき
  •  

考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

Superfly越智志帆

スーパーフライ おち・しほ 1984年2月25日生まれ。愛媛県出身。2007年デビュー。代表曲に「愛をこめて花束を(2008)」「タマシイレボリューション(2010)」「Beautiful(2015)」「Gifts(2018)」など多数。シンガーソングライターとしてのオリジナリティ溢れる音楽性、圧倒的なボーカルとライブパフォーマンスには定評があり、デビュー14年目を迎えてもなお表現の幅を拡げ続けているアーティストである。昨年1月には、前作から4年半ぶりとなるオリジナルアルバム『0』をリリース。ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を越智志帆自らが手がけ、Superflyの新章を実感させる仕上がりの作品となった。Superfly公式サイト


ランキング

イベント

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき

  • ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号第6091713号)です。ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら