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Superfly ウタのタネ

小さい頃、洋服といえばお下がりでした。
あまり新しいものを買ってもらったことがありません。私服も、制服や学校で使うあれこれも。
少しは羨ましいなーと思うこともあったんだろうけど、そこまでネガティブに感じてなかったな。むしろお下がりが好きだった。そういう意味でちょっと変わり者だったかもしれません。
ダメージがある感じとか、型崩れとか、なんか愛くるしいな。なんて思っていました。
過去を振り返ると、今の古着への偏愛は必然だったのかも?! と思うと嬉しくなります。

好きなものへのこだわりも強かったのかもしれません。
小さい頃、ピアノの発表会におばあちゃんお手製ドレスで出演しました。
それは、全体的に薄いピンクのレースをあしらった……激甘ドレスでした。私は物心ついた頃から、女の子が好むであろう可愛いキャラクター・色味に全く興味がない。当時、母が寒色系を着せていたというのもあるのかもしれないけど、そもそも、ガーリーすぎるもの・フェアリーなものには見向きもしませんでした。地味に天邪鬼だったと思います。

おばあちゃんお手製ドレスのクオリティには脱帽でした。ただ……あまりの甘さ加減に、デザインの段階で相談してくれたらよかったのに! なんて不貞腐れてしまいました。一生懸命作ってくれたので着用してステージに臨んだけれど、ピアノが上手く弾けるかどうかよりもこの激甘ドレスは、アリかナシか? の方がよっぽど気になっていた思い出があります。

おばあちゃんとは一緒に住んでいました。本当に手先の器用な人で、しかも、おしゃれな人だった気がする。洋服をたくさん持っていたし。自分なりのおしゃれを楽しんでいたと思う。家から少し離れた病院へ行く時も、防寒なのかおしゃれなのか首にスカーフを巻いたりしてました。
定期的に美容院に行って、白髪頭にくるくるパーマのスタイルを維持していたし、いつもかけてた大きい眼鏡もアイコニックで可愛かった。シワでごつごつした指に押し込んだような指輪も、体の一部みたいでかっこよかったし、外出時には小さなバッグを斜めがけにして歩いてた。私がゴツイ指輪を収集してしまうのも、何も入らないであろう小さなバッグをいくつも買ってしまうのも、きっとおばあちゃんへの憧れなんだろうなぁ。その他にも、私のクローゼットには彼女が持っていたようなアイテムがたくさん潜んでいます。

周りから見れば、よくいるおばあちゃんファッションだったかもしれないけど、私にはおしゃれをするということがとっても素敵に感じられました。

あ、長々とおばあちゃんのことを書いたけど、今回語りたいことはおばあちゃんの話ではないです。
私の古着愛についてです! うっかり彼女の話で3000字を埋めるところでした(汗)。

さて、そんなおしゃれなおばあちゃんと暮らしてた私ですが、本気で洋服に興味を持ち始めたのは20歳くらいです(遅っ!!!)。それまでは、周りの女の子のように洋服自体は好きだったけど、流行りにも興味はないし、ブランドを所有したい欲もない。そうなると、私の好きなスタイルって何? 何を着ればいいの? という感じで過ごしてきましたが、古着という世界に足を踏み入れて以来、幸せな沼にハマっています。

当時60年代~70年代の音楽を好んで聞いていたので、その時代のカルチャーにも自然と興味が湧きます。ヒッピーカルチャーや、ハンドメイドやタイダイ柄、ベルボトムやロングのボサボサヘアー。写真集や当時の映像を見るたびに、「昔の人のスタイルって、かっこいいな!」とファッションは少しずつそういったスタイルに傾倒していきました。そして、松山の、ある古着屋さんに出会ってから特定のジャンルではなく、古着自体が好きで、古着がとてもクリエイティブなものなんだと気づかせてもらったのです。

そのお店は数年前に閉店してしまいましたが、当時の松山の古着屋さんの中でも異色で、飛び抜けて上質で上品。コスチューム色の強いものも扱っていたので、かなり上級者向けだったように思います。
なので、存在は知って気になっているけどなかなか入れない(笑)みたいなモジモジ期間を経て、ある日勇気を出して入ってみました。迎え入れてくれたのは、センター分けストレートロングヘアーの女性。印象的な大きな目にはブルーのアイシャドー。お人形のようなオーナーさんです。そして彼女の古着の着こなしを目の当たりにして、素敵!!!と感激してしまいました。確か、GUNNE SAXのようなロマンチックなドレスを着ていたと思うのですが、全く甘くない。古着だからといってコスプレではなく、他のアイテムでバランスをとって、自分の体に、今の(時代の)空気に、馴染んでいるのです。私のピアノの発表会のドレスの着こなしとは大違い(笑)。

その日から足繁く通うようになった私は、その日の彼女の着こなしを見るのが楽しみに。古着特有のダメージや色落ち、洋服のウンチクを聞きながら試着するのも至福の時なのです。
とても刺激的だったのはコーディネートの発想。何色だか判定できないような派手柄パンツも、離れて見た時になんとなくブルーに感じたらブルーパンツ! と解釈してトップスを選ぶ。型崩れしてしまったカーディガンも、ハズしたい時にちょっと肩を落として着るとクールだよ、など。自分がカッコイイと思えばなんでもアリ。それはポリシーがないということではなく、自分が探してきた洋服を我が子のように愛で、(長所も短所も)熟知しているからこそ、こうじゃなきゃだめ! なんて否定的な気持ちがない。こういう頭の柔らかい人、大好き!!

発想が豊かになるヒントを頂いてから、私も柄on柄のコーディネートは大得意です!

変な形のお洋服も、大歓迎。多少ハードルが高そうなアイテムだったとしても、直感的に好きと思ったものには何かご縁があるはず。迷わず購入してクローゼットに寝かせて毎日眺めたり風を通したり、話しかけたりもします(変態か。笑)。数年後に自分の体にしっくりハマるタイミングが来たりするので、不思議。なので私のクローゼットには15年以上一緒に過ごしている洋服たちがたくさんいます。手放すと必ず後悔したり、ウジウジ思い出したりしてしまうので(今も思い出すとちょっと泣きそう)、できるだけ手放さないように修理したりリメイクしたりしてキープします。

デリケートな面があるのもいいところ。古着は、動きやすさや過ごしやすさでいうと新品には劣るので傷つけないように、引っかけないように……、と慎重に行動するようになります。替えが効かない一点物なので帰宅するとすぐさまジャージ(!)に着替えていた私ですが、最近は自宅でも身に着けるようになりました。そうすると自然と所作が変わるのです。なんというか……ゆっくり動くようになる(笑)。さらには、着物を身に着けた時のように背筋が伸びる感覚を味わっています。魔法をかけるように一瞬にして気分を変えてくれる、洋服の力はすごい。

それにしても古着を着ているとなんだか懐かしい、新しいお洋服よりも親しみがある。それはやっぱりお下がり歴が長いことにあるのかな。小さい頃は、姉か近所のお姉さんの物だったんだろうけど、今や世界中の名前も顔も知らない誰かからのお下がり。ずいぶんスケールが広がったもんです。名前も性格も知らない誰かから、空を超え、時代を超えて譲り受けたのかと思うと、身がひきしまります。

そして古着屋さんに行くとなんだか元気になる。それは店員さんの醸し出す空気感にあると思う。古着歴約16年(お下がり歴も入れるともっと長い!)、いろんなお店に足を運びました。その経験からわかったことは、素敵なお店には素敵な店員さんがいるということです。彼らの着こなしに、所作に、全てが表れているんです。言葉を発しなくても、その人の考え方、人柄がにじみ出てる。ファッションってコミュニケーションなんだなと感激してしまいます。

彼らは、我々の想像を超えた壮大な買い物に挑み、数えきれないほどある選択肢の中からこれだ! と思うものを選び抜かなければならない。これってとてもパワーのいることで、自分の軸がしっかりしてる人じゃないとできないと思うんです。本当にかっこいいお仕事。

私たちの生活も、選択の連続ですよね。
時々、周りのムードに流されそうになって自分の意志の弱さに落ち込む時もあるけど、古着を身に着けた瞬間、背筋がピシッと伸びて、私が私に戻る。
それはきっと、バイヤーさんが一つ一つの洋服に込めた信念、パワーも一緒に纏っているからだと思います。やっぱりファッションはコミュニケーションなんだなぁ。

古着は奥深くて面白い。
まだまだ私の知らないたくさんの魅力があって、これから時間をかけていろんな魅力に気づけるのかと思うと、この沼からなかなか抜け出せそうにありません(笑)。

凝り固まった頭は柔らかく、乱れた心はフラットに。
私が私であれる、最強のパワーアイテムであり、永遠のパワースポットです!

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

Superfly越智志帆

スーパーフライ おち・しほ 1984年2月25日生まれ。愛媛県出身。2007年デビュー。代表曲に「愛をこめて花束を(2008)」「タマシイレボリューション(2010)」「Beautiful(2015)」「Gifts(2018)」など多数。シンガーソングライターとしてのオリジナリティ溢れる音楽性、圧倒的なボーカルとライブパフォーマンスには定評があり、デビュー14年目を迎えてもなお表現の幅を拡げ続けているアーティストである。昨年1月には、前作から4年半ぶりとなるオリジナルアルバム『0』をリリース。ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を越智志帆自らが手がけ、Superflyの新章を実感させる仕上がりの作品となった。Superfly公式サイト


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