2023年3月28日
お酒と私
著者: Superfly越智志帆
「今まで心の奥の方にひっそりとしまったままにしていた、日々感じたことを言葉にしてみます」。
Superfly越智志帆さんの人気連載「ウタノタネ」が、書きおろしエッセイを大幅に加え、単行本『ドキュメンタリー』として2023年4月13日に発売決定。
書籍刊行を記念して、書きおろしエッセイ「お酒と私」を大公開!
「お酒、好きなんです。いったい何の告白なんだ! って感じですけど(笑)」
「と言って、すごくお酒に詳しいとかそういうことはありませんので、そのへんを期待されている方にはすみません」
今回読んでくださった方にはもれなく志帆さんの好きなおつまみをお教えします。
どうぞお楽しみください。
お酒、好きなんです。
いったい何の告白なんだ! って感じですけど(笑)。今回はお酒と私の関係についてあれこれ書いてみたいと思います。と言って、すごくお酒に詳しいとかそういうことはありませんので、そのへんを期待されている方にはすみません(笑)。
私の家族の中で、男性陣は飲むんですけど、母も姉妹も飲まなくて、女性陣では私だけなんですよね。どうしてこうなっちゃったのかな? って考えると、単純に飲む機会が多かったから。やっぱり音楽活動をやったりしていると、打ち上げで乾杯、みたいなことになりますからね。自然とお酒との距離が近くなっていったという感じです。でも最初の頃は、美味しいとは思わなかったですね。ただつきあい程度に飲んでいたという感じでした。
ところが―。
あることをきっかけに、お酒の美味しさに目覚めてしまうのです。
なんと、ロマネ・コンティをいただく幸運に巡り合ったのです。ロマネ・コンティってご存知ですか? 私も人に説明できるほど知っているわけではないんですけど、少ない知識を総動員してお伝えすると、ブルゴーニュ最高峰の赤ワインで、とにかく生産数が限られているため、普通に百万円くらいはするそうです。当たり年と言われる良質なものになると、三百万〜四百万円になるものもあるとか! ヒエ〜〜。
お酒にこだわりなんてまったく持ち合わせていなかった、当時二十代半ばの私でございます。とりあえずビールから始まって、なんだったらずっとビールでいいやというほどお酒に対して無自覚な私なんぞが飲んでいいお酒でないのは重々わかっています。でも、そこにロマネ・コンティがあるんですもの(笑)。
当時所属していた事務所の社長さんがワイン好きで、どうにかこうにかツテを頼って手に入れた一本ということでした。どうしてそうなったのか今ではさっぱり記憶にないのですが、社長さん主催の「ロマネ・コンティ会」なるものになぜか私もお呼ばれすることになったのでした。
ですが、何度も言うように貴重で高価なワインです。いきなり乾杯でロマネ・コンティを飲み干すわけにもいきません。儀式と称して、普通にビールや日本酒をガンガン飲みながら食べまくるという、今思い返しても確実に間違っていると断言できる長い道のりを経て、ようやく行き着いたのでした。しかし、その時点で相当な飲酒量だったため、果たしてロマネ・コンティをまともに味わうことができるのだろうかと一抹の不安を抱えておりました。
見たことのない上等なグラスに、何とも言えない官能的な色合いの液体が注がれていきます。みんなで分けたので微々たる量ではありましたが、一口含んだ瞬間、その豊潤な味わいに驚いてしまいました。お酒が美味しいってこういうことだったのか! いわゆる、革命が起きるというやつですね。謎の儀式でバカになった味覚をもってしてもこのインパクトですから(笑)、ああ、最初に飲んでいればどんな味だったんだろうと思わずにはいられませんでした。
この出来事から、ワインを飲むことが多くなった気がします。
ワインを飲むと、ついついソムリエごっこをしてしまいます。プロのソムリエの方々は、ワインの味を花や果物に例えることが多いと聞くのですが、私は音に例えるんです。特に私は、ヴァン・ナチュール(自然派ワイン)を飲むことが多いので、なんて言うんですかね、酸化防止剤などが入っていない(わずかに入っているものもありますが)から良い意味で劣化もしていくし、だから味がイビツなんですよね。ボコボコしているというか。中には、ワイルドに育ちすぎて、ギリギリの味もあったりするんですけど(笑)。
そのイビツな感じが、スタジオでレコーディングした自分の曲のミックスを聴いた時に感じるイビツさととてもよく似ているんです。ちょっとハイが強いな、とか、ローが足りないな、とか。
音の場合はその場で調整していくことになります。ハイは強いけどこのまま置いておきたいから、足りない分のローを足してボトムを太くしていこう、という具合に。でもワインの場合はそんなことはできないからどうするかと言うと、料理でバランスをとるんですよね。もちろん私にそんな料理の腕があるわけはなく、ソムリエ気分でああだこうだ言っているだけなんですけど。レストランに行くたびに、プロのソムリエの方、料理人の方って本当にすごいなと思います。その仕事の仕方はまさに、みんなでひとつのサウンドを作っていく音楽の現場に似ているな〜と思いますね。
ワインというボーカリストにどんな演奏家や楽器(料理)を組み合わせるか?あるいは逆に、このバンドにどんなボーカリストを合わせるか? ワインだけだったら、う〜ん、みたいな感じのものも、料理と合わせたら、ああマリアージュ! みたいなミラクルが起きますからね。そうか、こうきたかー! って。
本当にお酒は日々のご褒美、日常をキラキラしたものにしてくれる魔法みたいなものですね。お酒があってよかった(笑)。
でも、歌う日の三日前にはお酒を抜かなければいけないんです。というのも、私はむくみやすい体質で、喉にダイレクトに影響が出てしまうからです。だから、ツアーやレコーディングの前になると、それまで褒めそやしていたお酒に対して、急に邪険になるんです。今までさんざん、最高の仲間だ、ありがとう! なんて調子良く言っていたのに。お酒の方からすれば、いきなり冷たくされて戸惑っているでしょうね。さらに、ツアーが終わったら、何事もなかったようにまた一方的な賞賛が始まるという。自分勝手でごめんなさいね、お酒さん。
ちなみに、私の好きなおつまみは、柿ピーです。なぜか、アテが何もない!っていう時も、柿ピーだけはどこかから出てくるんですよね(笑)。我が家の謎のひとつです。
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Superfly 越智志帆
2023/4/13発売
新潮社公式HPはこちらから
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Superfly越智志帆
スーパーフライ おち・しほ 1984年2月25日生まれ。愛媛県出身。2007年デビュー。「愛をこめて花束を(2008)」「タマシイレボリューション(2010)」「Beautiful(2015)」「フレア(2019)」「Farewell(2022)」など代表曲多数。シンガーソングライターとしてのオリジナリティ溢れる音楽性、圧倒的なボーカルとライブパフォーマンスには定評があり、デビュー16年目を迎えてもなお表現の幅を拡げ続けているアーティストである。2023年には全国9ヵ所13公演の待望のアリーナツアーの開催も決定し、精力的な活動を続けている。Superfly公式サイト
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とは
はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
「考える人」編集長
金寿煥
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