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Superfly越智志帆『ドキュメンタリー』試し読み

2023年4月18日

Superfly越智志帆『ドキュメンタリー』試し読み

二番目な私たち

著者: Superfly越智志帆

「今まで心の奥の方にひっそりとしまったままにしていた、日々感じたことを言葉にしてみます」。

Superfly越智志帆さんの人気連載「ウタノタネ」が、書きおろしエッセイを大幅に加え、単行本『ドキュメンタリー』として好評発売中!

書籍刊行を記念して、原稿を再公開! 今回のお題は「二番目な私たち」です。

三姉妹の真ん中、次女の志帆さん。

小さい頃から自身の性質についてよく考えてきて、最近になって思うようになったことがあるといいます。

幼い頃の思い出から、デビュー後に感じていたモヤモヤの理由まで、時空を超えて思いを馳せたのは……?

どうぞお楽しみください。

書影初公開! Superfly 越智志帆『ドキュメンタリー』2023/4/13発売!

ある日、娘二人を持つ友人が、子供の話をしてくれました。
お姉ちゃんが四歳で、妹は一歳。
夫婦ともに本当に明るく優しい人柄なので、娘たちはとっても伸び伸び楽しそうに育っているようです。
お姉ちゃんは天真爛漫で、妹が現れたからといって妙なジェラシーもなく、早くも器の大きさを感じます。妹は、胎児の時からワンパクな気配を醸し出していたそうですが、生まれてからもかなりワンパクらしいです。どうやら主張が強く、よく周りを観察していて鋭いらしい。
友人は、姉妹の性格の違いに、「大変だよー」と苦笑していました。
主張の強さ、観察力の鋭さ…。
私は二番目の彼女に同じ匂いを感じてしまったのです。

私は次女です。三姉妹の真ん中。
誰かの妹であり、誰かの姉でもあるという真ん中ポジションはとても気に入ってまして、どちらの立場もなんとなく理解できる一人二役感?! ちょっとラッキーな気もしています。
ただ…真ん中ポジションは、どちらの気持ちもなんとなくわかる分、なんでも先読みしがちです。自由に生きてるように見えて、空気を読むアンテナがすぐ作動してしまって、意外とわがままを言ってこなかった気がします。好きなこと・やりたいことを迷惑がかからないようにやる。私はそういった、自由を突き抜けられないタイプ。そんな自分がたまにめんどくさくなって爆発しています(笑)。

小さい頃から自分の性質についてよく考えてきましたが、最近になって、私の性格は中間子であるということよりも、生まれた順番によるものではないか?? と思うようになりました。
二つ上の姉は、豪快でパワフルです。
とにかく好奇心旺盛で、チャレンジ精神とその突進力たるや凄まじいものがあります。そして感受性も豊か(感情移入し過ぎて現実に戻ってこれないので映画鑑賞は苦手だそうです。笑)。
体は一つしかないので、暴れるエネルギーをコントロールするのは大変で、疲れると電池が切れたように寝込んでしまうようです。やりたいことがはっきりとあるのは本当に羨ましい。
子供の頃から、とても器用な人でもあったと思います。五歳でピアノを習い始めて、音感もあったし、譜面を読んで正確に演奏するということも難なくできていました。字を書くのも上手だったなぁ。字が生きてるんじゃないかと感じさせるほど達筆。絵を描くのも得意で、モチーフが画用紙からはみ出そうなほど、これまた生命力のある作品を描きます。私は譜面を読もうとしてもチンプンカンプン。字を書いても、余白を取りすぎだよね? と言われるくらい小さいし、絵を描いても「画伯!」と笑われてしまいます。「あんたは下手くそだね〜」と呆れられていました。同じ親から生まれても、こうも違うものかと、ため息が出る!
そして姉の一番の特徴は、越智家でひとりだけ社交的でサービス精神旺盛なのです。そのため交友関係も広く、彼女の興味は常に外に向いています。
内向的なタイプが多い越智家の突然変異。と私は思っています。
ケタケタ笑う姿がなんとも愛らしくて、姉が笑うと、家族が明るくなる。
越智家の長女は、とっても影響力のある人物。

とはいえ、妹からは長女ならではの苦悩も見えました。
両親にとっては初の子育てでピリピリした瞬間も多くあったはず。「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい!」「ちゃんとしなさい!」そういうお叱りに姉はうまく反論できません。たとえ理不尽に思っても歯を食いしばりながら真正面から受け止め、ぐっと耐える。その素直で不器用なところが子供らしくて可愛らしい。
私はというと、叱られる姉の陰に隠れて周りの空気を観察し、「フムフム、あれをやれば逆鱗に触れるんだな」「謝るときは、こうしたらいいんだな」「私だったら論破してみせる!」など…分析力をメキメキと磨いていたのです(笑)。
姉と両親のやり取りを観察→分析→実践することで、私の家での行動は順調に要領がよくなっていったのです。
私は姉にとって、可愛くない妹だったと思います。
そんな憎たらしい妹とは距離をあけたかったのでしょう。わかりやすく煙たがられることもありました。その時は、ちょっと寂しかったな。
ある真夏の午後、私は母親にひどく叱られたことがありました(内容は全く記憶にございません)。母も、私のずる賢さに手を焼いていたこともあって、今回ばかりは反省させようと家から閉め出したのです。今じゃ考えられないですよね、炎天下に子供を庭に放り出すなんて…(笑)。母の凄まじい剣幕と、ピシャッ! と勢いよく閉められた玄関の音に驚き、最初の数分は子供らしく「ごめんなさいーーーー!」とドアを叩いたり、泣き叫んでいましたが、しばらく経つと、きっとこれ以上泣いても仕方ないよな、と涙スイッチを切って木陰で休んでました(笑)。その姿を窓越しに見てた母はさらに腹を立てていたそうです(笑)。

姉は両親から特別な愛情を与えられていたと思います。それは厳しさで表現されることが多くて、気持ちのすれ違う様子は、そばで見ていて歯がゆかったなぁ。
両親と姉の間には決して切れることのない強い絆があって、この完成されたムードを肌で感じ、邪魔してはいけないとさえ思っていました(空気読みすぎ)。
それなりに彼女を羨ましく思うこともありました。二番目はなんでもかんでもお下がりです。ユーズドです(小さい頃ほど新品には縁がなく最初はいじけてたけど、おかげで古着が大好きになったので、かなり感謝しています)。
取っ組み合いの喧嘩をしたり、意地悪をされたことだって何度もある。
でも、不思議なことに、姉をライバル視したことも嫉妬したこともなければ超えたいなんて思ったこともない。
むしろ、何かに悩んでたら支えたいと思っていたし、コンプレックスに苦しんでいた時期には姉の長所をいっぱい教えてあげたりもしてたくらい。このエッセイを書きながら改めて気づいたのですが、私はものごころついた頃から、姉のことがとてもとても好きだったんだと思います。
私が、人生で一番最初に尊敬した人です。

デビューしてからの日々、ずっと不思議に思っていたことがあります。
私の仕事は、作品に順位をつけられます(主にリリース週ですが!)。
負けず嫌いなので、どうせなら一番を勝ち取りたい。願い叶って過去の作品で一位をとったことは何度もあります(みなさんありがとう!!!)。それなのに、いざ夢が叶っても全くピンとこない。
教えてくれたスタッフにも「へー、おめでとうございます! 良かったですね!」となぜか他人事。謙遜でもなんでもなく、体から喜びの感情が流れ出てしまうんです。
今回改めて姉について考えて、この長年のモヤモヤの理由にも気づくことができました。
私は「生まれた時から二番」です。姉への忠誠心なのか、二番の自覚が強すぎるのかもしれません。たとえ一番を取れたとしても、「私は永遠の二番なんだから」という気持ちが勝ってしまって、スッと受け入れられないようです。
このポイントに気づいてから、少し楽になれました。理由はどうあれ現状に満足できず、ついついストイックになって頑張れているんだとしたら、それはそれでいいこと。うまく喜べない自分に疑問を持つのはやめようと思えたんです。

冒頭で登場した友人の二番目の子供も、いつもお姉ちゃんのそばで安心して過ごしてる。頑張って自己主張してる姿も、とても微笑ましい。
彼女にとっても、お姉ちゃんは最初に尊敬した人になるんじゃないかな。
いつか大きくなった時に、お姉ちゃんの好きなところを話してくれるといいな。
そして、二番目であることについて私と同じように戸惑うこともあるかもしれない。そんな日が来たら、この分析結果をアツく語ってあげたい。

時にずる賢く、時に空気を読み、自分を確立させる。
二番目な私たち、きっと仲良くなれると思う。

『ドキュメンタリー』

Superfly 越智志帆

2023/4/13発売

新潮社公式HPはこちらから

Superfly越智志帆

スーパーフライ おち・しほ 1984年2月25日生まれ。愛媛県出身。2007年デビュー。「愛をこめて花束を(2008)」「タマシイレボリューション(2010)」「Beautiful(2015)」フレア(2019)」「Farewell(2022)」など代表曲多数。シンガーソングライターとしてのオリジナリティ溢れる音楽性、圧倒的なボーカルとライブパフォーマンスには定評があり、デビュー16年目を迎えてもなお表現の幅を拡げ続けているアーティストである。2023年には全国9ヵ所13公演の待望のアリーナツアーの開催も決定し、精力的な活動を続けている。Superfly公式サイト

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥


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