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Superfly ウタのタネ

緊急事態宣言期間中、チコちゃんの口が臭くなった。腐敗臭のような、なんとも耐え難いにおい。
前々からにおうなと思っていたけど、以前にも増してにおいの飛距離を伸ばしていた。1メートル以上先でも感知できるレベルで、近くにいるとなかなか辛いものがあるけど仕方ない、我慢。歯石でもたまってるのだろう、コロナが落ち着いた頃にゆっくり病院で診てもらおうと、様子を見ていました。

あ、ちなみに「チコちゃん」とは、私の飼っている犬です。

私のインスタグラムに写真のネタ切れになると登場する、なかなかいい仕事をしてくれる白いチワワ10歳♂であります。
そんなチコちゃん、ある日の朝、臭い口から突然吐血しました。口の周りの白い毛が赤い血で染まるというなかなか悲惨な状態。本人は血が垂れてることも気づいてないし、痛くもないらしく、いつも通りかまってかまって~~と近づいてくる。ホラーだなと思いながら口の中を覗くと、歯茎の一部から出血していました。慌てて病院に電話しようとしたけど、待てよ……果たして診察してるのだろうか。
恐る恐る病院に連絡して、電話越しに先生の声を聞いたとき、女神様だと思いました。先生って偉大。感染のリスクがある中、動物たちのために変わらず診察を続けてくれてることに感謝でいっぱいだし、なんて勇敢な方たちなんだ……。と感動してしまう。
診察してもらったところ、歯肉の炎症がひどく、歯茎にできた血豆のようなものが破裂して出血しているとのこと。週に一度くらいのペースで抗生物質を打ちに来てくださいと伝えられ、緊急事態宣言中にまさかの通院生活が始まったのでした。

通院は週に1度。この期間は完全予約制になり、普段よりも先生とゆっくりお話ししたり、何気ない質問もできたいい時間でした。ずっと家にこもりっきりだったので、週に1度のドライブ感覚でいい息抜きにもなって、チコちゃんも飼い主もご機嫌です。
通院生活が始まって3週間ほどで歯肉の炎症は落ち着いた頃、先生から「チコちゃん、咳してない?」と聞かれました。
咳???? 人間の咳のような症状は見たことはありませんでした。ただ吐くような姿勢で「カッカッ!!」というような、まるで人間のオジサマが痰を切るような様子はあった。「あの、オジサンみたいなやつですか?」と聞くと「そうそう、それ!」と先生。あれは犬の世界では咳なのか……。
実はそれが病気のサインだったようです。レントゲンを撮って、細かく説明を受けます。

チコちゃんは心臓肥大を起こしていました。本来、ピーマンのような形をしている心臓は、肥大すると風船のようにまん丸になります。心臓のサイズが大きくなるにつれ、気管・食道が圧迫され、食べ物などが胃へと通過できずに咳をしてしまう。という状態になっていました。この病気は小型犬にはとても多く、心臓病はチワワ死亡率ナンバーワンだそうです。いきなり余命宣告をされたような気がして、全身が硬直してしまう……。

あ、ちなみに、チコちゃんは現在すこぶる元気です!このまま悲しい結末を読まされるの??? と不安にさせてしまったかもしれませんが、ご安心ください(笑)

話を戻すと……。
肥大した心臓を落ち着かせる薬と、むくみを軽減させるための利尿剤などを処方してもらい様子を見ることに。そして先生からは「できるだけ興奮させないようにしてね」とアドバイスいただきました。え? いつも興奮しかしてないのにどうすればいいのだ。お散歩中、犬に吠えるのはもちろん、すれ違う人が手に持っている買い物袋にだって(犬と勘違いして)威嚇するのに。それと、我が家のベランダに時々やってくるカラスはどうする?? チコちゃんにとってカラスは天敵。鳥のくせに犬と同じくらいのサイズ、そしてあの独特な威圧感が苦手らしい。飼い主がカラスのクチバシやボディの美しさに見惚れてなかなか追い払わないので、チコちゃんはいつもプリプリ怒っています。
今後、カラスはすぐに追い払うにしても、すれ違う犬には目隠し作戦だ。チコちゃんが刺激されそうな何かが近づいてくると手で彼の目を覆い隠すしかない、視界に入れないのが一番だ。……とあれこれ頭で考えながら病院を出て、車に乗り込んだ瞬間、ショックと悲しみが押し寄せてきました。

チワワの寿命が10~15年だということはしっかりと覚悟して飼い始めたつもりだったのに、やっぱり簡単には受け入れられないもの。
こういう時って、後悔の感情が一番に浮かび上がってくるんですね。忙しくてかまってあげられないこともあってごめんね、とか。まともに躾もできないダメ飼い主でごめんよ、とか。こんな気持ちにならないように後悔しないように毎日過ごしてたつもりだけど、チコちゃんが幸せに思ってるかどうか、言葉で確かめられるわけではないので不安が勝ってしまう。
自宅に戻ってからもチコちゃんと離れたくなくて、膝に乗せてやたら体を撫でまくりながら涙ポロポロ。もはや口臭すら愛おしい。

悲しいけれど、チコちゃんが病気になったことを報告しなきゃいけない人がいる。チコちゃんの大切な人です。

10年前、チコちゃんは知り合いの家族から譲っていただきました。その家族は動物が大好き。愛情たっぷりで動物と暮らしています。2009年の年末、当時飼っていた2匹のチワワから3匹のチワワが生まれたと聞いて見せてもらうことに。生後2週間前後くらいだったと思うので、まだ上手に歩けないし目もしっかり見えてなかったと思います。そんな手のひらサイズのチワワたちをカワイイな~と正座して眺めていると、一匹のチビチワワが私の太ももによじ登ってきたのです。柔らかい爪の感触まで覚えています。
あまりの可愛さに、私は一瞬にしてメロメロ。
いつか動物と暮らせたら……と夢見ていたけれど、ペットショップで動物を買うという選択肢は思い浮かばず、もしご縁があれば一緒に暮らしたいなと思っていました。そして本当は猫派な私(笑)。犬と二人暮らしというのは自分でも意外な展開だったけど、よじ登ってきたあの子が忘れられず、数ヶ月後にご家族に譲ってもらうことしたのです。
こうしてやってきたのが、チコちゃん。
今でもご家族とは写真を送りあったり、何度か里帰りもさせたりと交流は続いています。飼っているというよりも、預かっているという気持ちの方が強い。今回の病気に関して伝えるべきことを頭の中でまとめていると、同時に今までの10年間の記憶が次々に思い起こされ、どうにか時間が止まらないものかなぁと願ってみたりしてしまう。

あぁ、いろんなことがあったなぁ。ずっと一緒にいた飼い主と離れ離れになるなんて、さぞかしチコちゃんも寂しくて落ち込んでるはずだと彼を見てみると……白目を剥いて爆睡しているではないか。起きるといつも通りご飯を催促するし、散歩も行きたがる。随分サッパリしています。お留守番を強いられた時のほうがよっぽど寂しそうに見えるけど、チコちゃん、病気になって寂しいなんて、きっと1ミリも感じてないよね……!?

飼い主びっくり。
お陰様で、私も開き直ることができました。

動物は強い。生き方のお手本です。
自分の運命を受け止めながら、与えられた「今」を生きることだけを考えています。
私たち人間は、ついつい過去や未来に目を向けてしまいがちで、過去には執着や後悔をして、未来には期待や不安を感じたりする。
そうやって未来や過去に囚われている時に限って、「今」がおざなりになってしまったという経験が何度もある。
動物には時間の概念も日にちの感覚もないからこそ「今」にフォーカスできるのかもしれませんね。
おそらく彼らには、未来に何かを期待する気持ちなんてない。
それは、時間の概念を知ってしまった人間のエゴなのかもしれません。
チコちゃんのサッパリとした様子を見て、彼が寂しいなんて思ってないのに、寂しいはずだと決めつけて過ごすのはやめようと思いました。

病院通いを始めて数ヶ月、信じられないくらい元気です。
少しダイエットをして、身軽そうなチコちゃん。口臭は、相変わらずだけど、これからもよろしくね。

もとい。
今日も、よろしくね。

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

Superfly越智志帆
Superfly越智志帆

スーパーフライ おち・しほ 1984年2月25日生まれ。愛媛県出身。2007年デビュー。代表曲に「愛をこめて花束を(2008)」「タマシイレボリューション(2010)」「Beautiful(2015)」「Gifts(2018)」など多数。シンガーソングライターとしてのオリジナリティ溢れる音楽性、圧倒的なボーカルとライブパフォーマンスには定評があり、デビュー14年目を迎えてもなお表現の幅を拡げ続けているアーティストである。今年1月には、ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を越智志帆自らが手がけた4年半ぶりとなるオリジナルアルバム『0』をリリース。Superflyの新章を実感させる仕上がりとなった。Superfly公式サイト


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