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 「トースター・プロジェクト」から六年、われらのトーマスが、再びトンデモプロジェクト「ヤギ男」とともに帰ってきた。本書はその壮大なる試みをまとめた一冊である。

 あのとき学生だった彼も、すでに三十三歳。就職しようとがんばってはみたけれど、なかなか採用してもらえない日々。気がつけば、ガールフレンドはまっとうな職に就いているし(そろそろ結婚も気になるし)、学生時代の友人たちはそれぞれのキャリアを邁進(まいしん)している。一方トーマスはといえば、いまだに実家暮らしのうえ、トースター・プロジェクト以降は鳴かず飛ばずの日々で、割り当てられた仕事は、(めい)っ子の愛犬ノギンの散歩だけ。さすがの彼も(あせ)るのだが、トーマスが多少人と違うのは、そこで就職活動に本腰を入れるのではなく、将来に対する不安を忘れる、つまり、全力で現実逃避する道を選ぶところだ。そうだ、人間をちょっとだけ休んで動物になれば、このややこしい悩みからも解放されるんじゃないかな? そうだ、休んじゃおう! これがトーマスにとっての(ひらめ)きとなり、「人間をお休みする」という一大プロジェクトが動き出す(意味がわからない)。

 トーマスを、トーマスたらしめたる理由は、なりきる動物を選ぶところにもよく出ている。最初に選んだ象を、いとも簡単にあきらめるのだ。サファリで象を間近に見て、大きすぎ、ヤバイと気づく。いや、わかっていなかったのかと、訳していてさすがに驚いた。挙げ句の果てに「だって、象にはなりたくなくなっちゃったんだもん」と、軽く開き直ってみせる。なんなのそれ、わがままなの? 本気なの? 訳す手が何度止まったかわからない。結局、象をやめてヤギに決めるわけだが、その経過にも、凡人の私は唖然(あぜん)としてしまう(意味がわからない)。でも、トーマスは至って本気だ。まったくメチャクチャだなと思いつつも、時折挟まれる彼の本音と、奮闘する姿を(とら)えた写真を見ると、どうしたって憎めない。トーマスの周辺でこのプロジェクトを手伝った多くの人たちも、同じような気持ちだっただろう。とにかく憎めない男なのだ(そして、大胆なようで、メチャクチャ恐がりだ)。

 しかし、トーマスのすごいところは、ここからである。一旦(いったん)目標を定めたら(その前の経過がどうであっても)、信じられないようなスピードと熱量で、一気にプロジェクトを進めていく。ルールなんてどうでもいい。危険なんて顧みない。資金提供を申し出ていたウェルコムトラストに、プロジェクトの変更を報告することもあっさり忘れて(しか)られる。え、そこ? そこを忘れる? と驚いていてはトーマスについていくことはできない。なにせ、ヤギになろうとするような男だ。ダメだと言われれば言われるほど燃え上がるトーマスに、周囲がタジタジとなる様子がよくわかる。結局最後は、「死ぬな」という言葉とともに、トーマスを送り出すしかないのだ。

 今回のトーマスの「ヤギになって人間をお休みする」という「ヤギ男」プロジェクトは、二〇一六年のイグノーベル生物学賞を受賞した。それからしばらくの間は、トーマスがヤギの四肢を模した装具をつけて、本物のヤギとアルプスで(たわむ)れるユーモラスな姿が世界中の人びとの笑いを誘い、大きなニュースとして報道された。私もその報道に触れる度に、またトーマスがやってくれたと、とてもうれしかった。トーマスは今回、悩みから解放されるためにヤギになったのだけれど、結局彼は、自分自身の悩みを忘れることに成功しただけでなく、その試みで世界中の多くの人びとを笑わせることに成功した。お(なか)を抱えて笑った人たちは、きっとその瞬間だけは悩みを忘れていたのではないか。それであれば、トーマスの成し遂げたこのプロジェクトは、偉業とも言っていいのではないかと私は思う(たぶん)。

 今回のプロジェクトで、トーマスが身をもって教えてくれたのは、笑われる勇気だ。誰がなんと言おうとも、自分の目標に向かって突き進む強さだ。

 彼は本書の中でこう訴えている。

 「深い知性を離れ、泳ぎ出す僕についてきてくれ。一人だと(おぼ)れてしまうかもしれないからね」

 もちろんだよ、トーマス。次のプロジェクトがどんなものになるか、果たして次があるのかどうかは誰にもわからないけれど、トーマスが泳ぎだした時には、きっと私もその後ろをワクワクしながらついて行くと思う。

 がんばれトーマス、負けるなトーマス。これから先もずっと、私たち読者を驚かせ続けてほしい。

二〇一七年 九月
村井理子

――気になる内容は本書で!――

イグノーベル賞受賞! 世界があきれた爆笑実験の数々!

 

ハロー! ぼくはトーマス・トウェイツ、33歳。いい年して父親と同居、銀行からも口座の開設を断られちゃった。仲間はキャリアを得て、人生上向きなのに、今の僕には何もない。そして、これから先も……。こういう人間特有の悩みっていうのを、数週間だけ消しちゃうってどうかな!? 本能だけで生きるって楽しそうじゃない!? 人間をお休みしちゃって、少しの間、動物になれたら、すごくない!?

全部本気(マジ)でやってみた! 

四足歩行で歩きたい→ヤギを解剖して人の骨格との相同関係を研究!
草から栄養を摂りたい→草に含まれるセルロースを糖に変える装置を開発!
何も考えたくない→脳に電気ショックを与える(※よい子は真似しちゃダメ!)

世界があきれた爆笑実験の数々! 抱腹絶倒サイエンス・ドキュメント!

人間をお休みしてヤギになってみた結果

トーマス・トウェイツ/著、村井理子/訳


2017/11/1発売