シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
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にがにが日記―人生はにがいのだ。

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3月22日(日)

 連休の最後の日ももちろん仕事だ。自分で選んだ好きな仕事だから何も文句はない。むしろ幸せである。こんなにたくさんいろんなところで書かせてもらってほんとうに幸せだ。
 この連休は、ちょこちょこネトフリ見たり映画見たり、ひさしぶりにロング散歩(17km(笑))したりした以外はだいたい家で仕事をしている。
 仕事っていっても校正ばっかりだけど。『新潮』の小説、『文藝』のエッセー、あと共著の沖縄の本。こちらはほかの著者のパートにもだいたい目を通す。こないだ購入したiPad Proが大活躍してる。これとApple Pencilでかなり校正作業も楽になった。
 おはぎもiPad Pro使えばいいのに。
 おはぎがこれで映画観たらIMAXシアターやな。
 ソファに座って、紙コップにカリカリを山盛りに入れて、ひとつぶずつポリポリ食べながら映画観てたらかわいいのに。
 『101匹わんちゃん』とか観ながら「犬、くたばれ!!」とか言ってたらかわいいのに。
 おはぎはそんなこと言わないけど。
 でもほかの犬とか猫がめちゃ嫌い。
 自分も拾われたくせに、ほかの捨て猫を保護すると涙目になって怒る。
 「そんなもの拾ってこないでください!!」
 おまえも拾われたんやで
 犬とも仲良くしたらいいのになー。犬と猫いっしょに飼いたい
 犬ッコロと遊びたいのう。
 床でゴロゴロしながら抱き合ったり甘噛みしたりしたい。
 人間が甘噛みする方。
 いまおはぎはソファで丸まって寝てる。
 寝てるだけでほんとうにかわいい。
 猫のまとめブログをつくりたい。

  いま、猫が話題! 
  かわいさは?  毛並みは? ごはんは? 
  調べてみました!
  結論「猫はかわいい」
  いかがでしたか?
  あなたも猫を飼ってみては?

 これついったでも書いたかな。
 しかしおはぎがソファで寝てるとぜんぜん猫に見えない。たぬきにしか見えない。たぬきとかレッサーパンダとかなんかそういうどうぶつ。
 ひさしぶりにヨドバシ行ってきた。ひととモノが多くて疲れた…。阪急百貨店に寄ってお土産につい要らんものを買う。嶋屋のポテト。めちゃ美味いよな。あと焼き鯖寿司。おやつとしては明らかに多すぎるけど。
 まあええがな。
 連休は天気良かったけど、今日もめちゃ良い天気だったけど、このあと雨降るんだよね天気予報によると。だから洗濯はやめておこう。休みのあいだに毛布を4枚ほど洗って干した。快適ですわ。
 晩ご飯食べる前はお腹減って仕事できない。晩ご飯を食べた後はお腹いっぱいで仕事できない。
 いったいどうしろと!?
 前回は「もう日付の意味ないな」と思ってわざと1日だけで書いたんだけど、今回は普通に日記にしようかなと思ってるんだけど、そうするとこんなダラダラした、何買っただの、何食っただの、どこ行っただの、そういう文章になるんだけど。
 こんなもの読んでおもしろいか?
 おもしろいと思う方は1を。
 おもしろくないと思う方は2を。
 そのほかの方は3を押して、最後に#を押してください。

4月14日(火)

 8年ぐらい前に学生しょくんと万博公園に遊びにいったときに、ふと油断してるところをおもいきり写真に撮られたのであった。


 ほんまに油断してた。視線の先に小さい子どもがいて、つい顔がゆるんでるところを撮られた。
 なんか花にかこまれて微笑んでて、死の世界である。
 しかもこれ、この年のゼミの卒論文集の表紙にされてしまった。
 それで、文集の製本を注文するときに大学生協からわざわざ電話かかってきて、「表紙はこの、先生がお花に囲まれて微笑まれてる写真でよろしかったでしょうか?」と聞かれた。
 拷問か。
 こないだ別のものを探しててたまたまこの写真が久しぶりに出てきたので、いったん白黒にしてみた。


 で、AIで自動で色付けしてみた。

あざやかな色で現代に蘇る岸政彦

 けっきょく日記が続かない。まあいいやどうせ俺なんか
 薬を飲まずに寝ると、夜中の3時から朝6時ごろにかけて必ず目が覚めてしまう。そういうときはだいたい必ず、とても嫌な気分だ。
 我が家では「どうせ俺なんか病」と言われている。どうせ俺なんか
 何やっても中途半端やからな。
 いろんなことやってみてるけどぜんぶ中途半端。
 まあいいや。
 まあ、われながら中学生みたいやなと思う。
 いい歳していつまでもこういうことでくよくよする。
 中学40年生。
 ところでおさいは子どものころ、ミンキーモモというアニメが好きだったらしい。どんな話?って聞いたら、「12歳の子どもが18歳のおとなになる話」
 たいして大人になってへん。
 この歳になると12歳も18歳も一緒だ。
 みんな子どもだよ。
 おれも子ども。
 52歳児。
 しかしおはぎももうすぐ二十歳やな。
 きなこに会いたいな。
 死だけはこの世界で絶対やな。
 いくらカネを積んでもどんなに努力しても、絶対にきなこには二度と会えない。
 折り合いのつかんことばっかりやなあ。

5月4日(月)

 月イチ日記になっとるな。
 というわけで非常事態宣言が出て、大学の授業もとりやめになり、家にいる。散歩ぐらいしかすることがないので、合わない靴でロング散歩してたら、「足底腱膜炎」っぽいものになってしまい、激痛で歩けない。1年でもっとも天候がよい時期に、どこへも行けない。
 ほんとに毎日いい天気。
 そして昨日と今日は薄曇りで、これがまたロング散歩にはちょうどよい天気なのだ。かんかん照りのなかだと何時間も歩けないからね。
 家にいる。
 昨日は少し歩いた。
 酒も飲むけど甘いものも好きで、それで太る一方なんだけど、トーストにジャムとかマーマレードとかをのせるのが好きなんだけど、さいきんどこのスーパーでも「甘さひかえめ」「大人の甘さ」みたいなやつばっかりなの。「果実の味を生かした上品な甘み」とか。
 俺は激甘のジャムが食べたいんだよ!! 大人の甘さのジャムなんて要らねえんだよ!
 子どものジャムをくれ!!
 子どもの甘さ。
 バタートーストにはちみつ大量に塗ると、こんなうまい食いもんはないって思うな。
 こういうのがいちばん幸せなんだよ。
 はちみつバタートーストに乾杯。
 しつこいようですが、なんでバレンシアガに乾杯したんだろうな。
 世の中わからんことだらけやな。
 ずっと家にいるとプラごみがすごい量。自炊するということは、プラごみを出すということである。
 これまで知らんかった新しい言葉がどんどん飛び込んでくる。濃厚接触、quarantine、オーバーシュート、実効再生産数、エンベロープ。

6月21日(日)

 完全に月イチ日記だ。
 出張にも行けないし大人数で飲み会もできない。ほんとに散歩ぐらいしかすることない。そしてよく雨がふる。散歩もできないとほんとに気晴らしがない。
 それでもちょいちょい歩く。こないだ淀川の河川敷を歩いていた。梅田やミナミにひとが少ないぶん、河川敷は、野外だし距離が取れるし、逆にひとが増えた気がする。
 サッカーをして遊んでいた男子高校生が叫んだ。
 「失敗したンゴ」
 …ンゴって、口に出して言うんや。
 関係ないですが、日時を決めて知らないひとどうしで淀川の河川敷に集まって、ディスタンスを確保しながら川にむかって大声で生殖器に関する放送禁止用語を叫び、そのままお互いの名前も聞かずに解散する、というオフ会をやりたい。
 口に出して言うといえば、ラングドシャっていうお菓子、ぜったい口に出して言っちゃう。ラングドシャー。ラング・ドシャアアアア
 ドッシャアアアアアアアア
 シャアアアアア
 そういえばこないだおさい先生が「サンテグ・ジュペリ」って言ってた。しかもそれを指摘されると「そんなこと言ってない」って言い張ってた。
 ぜったい言うてた。しかも「ジュペリ」のところが「リ」にアクセントがあってそれ自体が関西弁みたいになってた。
 サンテグ・ジュペリ。
 ドッッシャアアアアアアア
 ドシャアアア

7月20日(月)

 今日から真面目に日記書く。
 酒は飲みたくないけどうまいものを食いたい夜、というものがある。ノンアルコールビールでも飲めばいいんだけど、なんか気がひける。そんなにたくさん飲めないしね。
 実際にお店やってるひとから見てどうなんだろう。ノンアルの客って、迷惑なんだろうか。
 飯をたくさん食う自信はあるのだが。
 日本も台湾みたいに、小吃の店がたくさんあったらいいのに。
 夜中に書斎を抜け出して小腹を満たして、すぐに帰ってまた仕事を再開する。そういう夜がほしい。
 まともな飯を食う時間がないときにコンビニに行って、でもぐるって一周してそのまま何も買わずに出てくることが多い。
 なんでコンビニに並んでる食いもんってあんなにまずそうなんだろう。
 夜中だと居酒屋とかになっちゃうし、居酒屋だと酒を飲まないといけない。
 牛丼屋以外で酒を飲まずに飯を食う方法はないのか。
 ここだけの話だけど、おれが「お忙しいところ恐れ入ります」ってメールで書いてたら、それは「おい」しかタイピングしてない(単語登録)。あと「お世話になります」は「おせ」しか入力してないし、「よろしくお願い申し上げます」は「よろ」しかタイプしてません。内緒の話な。
 「まことに申し訳ございません」も「まこ」で出てくる。
 便利。
 あと、「らい」で「ライフストーリー」と「ライフヒストリー」の両方を登録してあるので、たまに間違える。
 クラムボンはデパスを処方してもらったよ。
 こないだ大阪の地元の友だちが、女子中高に通ってて、中学生のときに先生が怒ったときによく「お前ら飛田に売るぞ!」って言ってた、ていう話を聞いた。
 ひどすぎて笑う。
 むかしの学校はひどかった。俺も普通に殴られてたし。
 あまりに理不尽なことで殴られるので一度だけ殴り返したことがある。
 100倍になって返ってきた。
 ただの殴り合いである。
 ついったのプロフィールんとこ見てていつも思うんだけど、「4歳と6歳の2児の母です」「父です」っていうのは多いけど、「37歳の男性の妻です」「51歳の女性の夫です」っていうのはぜんぜんないな。
 配偶関係はアイデンティティにならないのか。
 「25歳公務員の男性の姉です」とか。
 わざわざ書かない。
 こないだ、最後のスター・ウォーズ観た。考えてみたら小4のときに観てからもう40年以上の付き合いで、子どもからおとなになってもう初老にさしかかるまで、言うたら人生をずっとこの映画とともに過ごしてきたようなもので、もういろんなアレがアレして後半40分ぐらいはずっとボロ泣きしてた。
 いやあ、最後がこの作品で良かった。まあ評価や好き嫌いはひとによると思うけど、おれは10歳のときに観たこの映画が、52歳でこういう終わり方して、ほんとに良かったと思う。
 ジョージ・ルーカスをはじめ、この映画をつくってきたすべての方がたに心からお礼を言いたい。そういう気分。

7月22日(水)

 何人かで飲んでるうちにみんな酔っぱらってきて、路上で相撲をとった。
 久しぶりにそういう飲み方をした。
 しばらくお酒要りません。
 ちょっと前についったで書いてちょっとバズったんだけど、家で一緒に暮らしてる犬とか猫の名前って、めっちゃ変な呼び方するよね。
 おはぎは、だんだん「おは」から「おぴ」に変わっていって、それが
 おぴる
 おぴるばん
 オピルバン首相
 …になって、単に「首相」と呼ばれている。そのほかにも、「おは」が「おはっぷ」になり「おはっぷ岬」になっている。
 ほかにも「怪獣オバンギ」とか「パギ之進さま」と呼ばれる場合もある。
 ぜんぶ返事する。
 きなこは、「きな」が「きにゃ」になり、
 きにゃり
 きにゃりこす
 きにゃりこす予備校
 …になった。なんで予備校なのかはわからない。
 あとほかにも、きなこが「きにゃった」になり「にゃった」になり、
 にゃった
 にゃったにゃんきち
 にゃったにゃんきちにゃったった
 …になった。そのほか、
 きにゃり
 きんにゃりこんにゃり
 にゃり
 にゃり山
 にゃり山運送(なぜ運送会社なのかはわからない)
 にゃり止まぬにゃり山
 とか言うてました。
 zoomばっかりしてる。1日8時間ぐらいzoomするときもある。
 こないだおさい先生がzoomのシンポジウムを真面目に見てたんだけど、登壇者の関西のおっさんがHIVを「えっちゃいぶい」って発音してて爆笑してた。
 しばらくずっと自分でも意味なく「えっちゃいぶい」って言うてた。
 こないだ、先端研のゼミで、真面目な(当たり前だけど)ゼミ発表を聞いてた。
 家族がスーパー銭湯に行く話が出てきた。
 ……スーパー銭湯に? 家族が?
 家族割でもあるのだろうか。
 日本型近代核家族の、何かこう、レジリエンス的な、ケアの論理のコモンズが居場所で、とかそういう話か。
 ぜんぜん違った。
 日本の家族のうちの「数%」がどうのこうの、という話だった。

7月24日(金)

 近所の耳鼻科に行ったら、子どもがいっぱいいた。みんなアレルギーやねんな。でもいつもより少ない。感染を避けているのだろうか。
 5歳ぐらいの男の子がいて、グズってダダをこねてた。
 若いお母さんがイライラしてる。
 「もう、あんたそんなんやったら、もう置いて帰るで! ひとりで帰りや!」
 とか言われてる。
 そしたら男の子が、
 「おれ5歳やで? ひとりで帰れるわけないやろ!」
 と言ったので、待合室にいた者全員が「そりゃそうだ」ってなった。
 ちょっと前にトイレットペーパーが急に店頭から消えたときに(なんかもうすでに懐かしい感じすらするけど)、ついったでみんな「トレペ」って言ってて、あれは東京の略し方なんだろうか。はじめて見たような気がする。
 たしかにトイレットペーパーって、日常用品にしては名前が長すぎる。
 トレペ。
 みんなさすが。きびきびしている。
 ウチは、
 トイレッペ
 って言うてます。
 なんかもっさりしてるな
 でもリズム感はいいよ。
 トレペより語感いいかも。
 しかしこんなどうでもいい話ばっか書いて人前に晒してもいいのかな。
 いいと思う方は1を。
 よくないと思う方は2を。
 そのほかの方は3を押して、最後に#を押してください。

絵・齋藤直子

 

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 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

岸政彦

1967年生まれ。社会学者。著書に『同化と他者化─戦後沖縄の本土就職者たち』『街の人生』『断片的なものの社会学』(紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)『愛と欲望の雑談』(雨宮まみとの共著)『質的社会調査の方法─他者の合理性の理解社会学』(石岡丈昇、丸山里美との共著)『ビニール傘』(第156回芥川賞候補作)『図書室』など。最新刊は『リリアン』(2/25発売)。

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