2026年9月24日
本当の贅沢とは何かと考えさせられた。
著者: 村井理子
住まいの広さを85平米→50平米→30平米→25平米へ。大阪から東京に移り住みながら、生活をダウンサイジングした主婦でブロガーの大木奈ハル子さん。「好き」をあきらめない、我慢しない節約、をテーマにモノを減らして暮らしを小さくしてきた実践的エッセイ『小さく暮らす 25㎡のゆたかな生活』が好評発売中です。「家の大半が荷物で、私は常に、その処分に悩まされている。もう何年も悩んでいる」という「村井さんちの生活」筆者・村井理子さんが、本書の書評を寄せてくださいました。村井さんも納得の大木奈流「暮らしの方程式」とは?
狭くても明るく居心地が良さそうな場所作りに大成功
わが家は夫婦と成人した子ども二人の四人家族(大型犬も一匹いる)。百平米に満たない狭い家に暮らしているが、この狭い家の大半が荷物で、私は常に、その処分に悩まされている。もう何年も悩んでいる。一番困っているのは、日々増えていく本だ。買うものもあるし、頂くものもある。趣味が読書だけなので、どんな本でも、未読でも既読でも愛情があり、手放すことができない。来週には片づけようと何の気なしに床に積んでいたものが、いつの間にかあっちにもこっちにも積み上がり、もうお手上げ状態だ。息子たちはインターネットで衣類や靴を次々購入しては、自室の床にポイッと投げて、そのまま。「かあさん、あのシャツはどこに行った!?」と大声で言いながら、床の衣類の山を、次々とひっくり返している。夫は「山に鹿の角が落ちていた」とか「浜辺に珍しい石が落ちていた」などと言って、私から見るとただのゴミを拾って玄関に並べている。もう絶対に、絶対に片づけよう! と誓ったが、どこから手をつけていいのかわからない。そんな私が読んだのが、本書だった。
著者は39歳で、出会い系サイトで出会った一回り以上年上の夫と結婚した。結婚を機に一念発起し、二人は人生の立て直しに挑むことになった。夫が一人暮らしをしていた広すぎるマンションを売却し、事故物件へお引っ越し。ついでに借金も返済。さあ、新しい人生のスタート! と意気込んだものの、夫の仕事の関係で大阪から東京へ引越しが決定した。ようやく生活が安定すると思われた矢先に夫にがんが発覚してしまう。そのうえ二人で協力しあって作り上げたDIY中古マンションは取り壊しが決まるなど、二人の人生は波瀾万丈、アクシデントに次々と見舞われていたようだ。
しかし不思議なことに、悲壮感がまったくないのがすごいところ。むしろ、妻の夫に対する「かわいい」という溢れる愛情が隅々に書かれており、きっと書き切れない苦労も、涙を流した日々もあっただろうに、今現在の生活の楽しさがひしひしと伝わってくる。生活のほとんどすべてを必要最低限ではなく、必要十分に抑え、それが快適さに直結している。本当の贅沢とは何かと考えさせられた。与えられたスペースに対して知恵を絞って工夫を重ねることが、この部屋造りの成功に繋がっているのではないかと思う。
私が二人の暮らしから感じたのは、二人の住まいは、二人とペットのための安全なシェルターではないかということだ。徒歩圏内ですべてが事足りる住環境は、これから先、高齢といわれる年齢になったときにも力を発揮するだろう。闘病中の夫が最も安心して治療を継続できる環境作りにも、十分配慮がなされている。狭いはずなのに、とても明るくて、居心地が良さそうな場所作りに大成功している。仲のよい夫婦だからこそ、できることなのかもしれない。
読んですっかり部屋を整えたくなってしまった
もうひとつ感じたのは、二人にとって住まいはピット(整備場所)ではないかということ。通院する、仕事のために外出する、買い物に行くといった普段の生活の営みの中心地として、二人が戻る場所が家として存在しているのではとも思った。ピットを中心として、二人の東京での暮らしが展開しているのだ。整備をする場所だからこそ、とことん実用的に作り上げているのかもしれない。
そんな二人の空間のなかで、私がインスピレーションを受けたのが、キッチンまわりだ。古い昭和のシステムキッチンを廃棄して、IKEAのミニキッチンに置き換えたり、業務用シンクとメタルラックを組み合わせてDIYしたりと、私にも出来るかもしれないと思わせてくれるアイデアが満載で、見た目もとても使いやすそうで真似をしたくなった。年齢を重ねて、食への考えが変化しつつある自分も、キッチンのダウンサイジングを実行したくなってしまった。
本書で最も読み応えがあるのが、パートⅢの「大木奈流『小さく暮らすには?』」だ。今現在夫婦(と中型犬)が暮らしているのはなんと25平米1Kのマンションなのだが、小さな暮らしのスペシャリスト夫婦が導き出した、小さな暮らしの方程式はどれを取っても納得しかない。ものを減らすということは、ただ単純に断捨離するのではなく、自分の好きなものや、パートナーのためにスペースを整え直すという作業なのだとよくわかる。多くを持つのではなく、自分が本当に求めているものを決まった分だけ所有することの楽しみも、パートⅢは教えてくれていると思う。
著者の暮らしの工夫で一つだけ、私もやっていることがある。それは靴下の色を揃えることだ。わが家の男子三人用の靴下は黒で統一している。同じメーカーの同じ種類の靴下を延々と買い足している。穴が空いたら捨てているが、片方捨ててももう片方は無限にあるので困ることはない。
本書を読んですっかり部屋を整えたくなってしまったので、とりあえず、自分の部屋から取りかかることにする。まずは、インターネット・ショッピングが大好きという自分の購買意欲をどうにかして大人しくさせることからスタートし、衣類を、書類を、トートバッグを、靴下を、徹底的にチェックしてみようと思う。必要なものを、必要最低限。1 in 1 out(ひとつ買ったらひとつ捨てる)を、私も徹底してみようと思う。
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大木奈ハル子『小さく暮らす 25㎡のゆたかな生活』
2026/9/28
85m²→50m²→30m²→25m²。住み替えるたびに、暮らしの満足度は大きくなっていった。本当に大切なものがわかったから。長年出番を待ち続けるだけの「2軍」の道具たちにグッバイ、でも趣味のあれこれは最優先で「1軍」ベンチ入り。転勤や取り壊し、病気だって何のその。誰でもできる快適な暮らしのコツを写真満載でご紹介。
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公式HPはこちら。
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村井理子
むらい・りこ 翻訳家。訳書に『ブッシュ妄言録』『ヘンテコピープル USA』『ローラ・ブッシュ自伝』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『サカナ・レッスン』『エデュケーション』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』など。著書に『犬がいるから』『村井さんちの生活』『兄の終い』『全員悪人』『家族』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『いらねえけどありがとう』『義父母の介護』など。『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』で、「ぎゅうぎゅう焼き」ブームを巻き起こす。ファーストレディ研究家でもある。
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MAIL MAGAZINE
とは
はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。
「考える人」編集長
松本太郎

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