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川上和人×小林快次「鳥類学者 無謀にも恐竜学者と語り合う」 (2018年8月1日・於神楽坂ラカグ)

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小林 恐竜は、ワニと鳥の中間です。でも、ここから鳥、ここから前は恐竜と、その区別がハッキリつくわけではありません。原始的な恐竜は爬虫類に近いけれども、ちょっとずつ、ゆっくり鳥に近づいていって、鳥になってはいくんですけど。

川上 恐竜について想像する時、小林先生は頭の中で、恐竜の骨が動いているんですか? それともそれには身が付いてる?

小林 う~ん、骨は骨ですね。ただ、身も考える時がある。その時は、発掘している地域に今、生きている生物が、やっぱり参考になります。同じような環境で生きているわけですし。アラスカに発掘に行って、グリズリーや鷲を見たりすると、哺乳類や鳥類も参考にしてますね。見るとやっぱり面白くて、たまに、そっちもいいなあと浮気したりしてね(笑)。

川上 恐竜は大きいというのも特徴の一つで、鳥の場合は、大きくてもせいぜいダチョウサイズですから、恐竜からみると小型です。だから大きさの点では、あまり鳥からの考察は役に立たない。その点では、大型の哺乳類や、祖先であるワニの要素から考えるしかないんでしょうね。

小林 厳密に言えば、鳥は小さすぎるし、ワニも半水生。恐竜は陸に住んでるからその点では、陸生といえば哺乳類なんだけど…どれも完全には参考にはならない、ということはあります。

川上 ワニといえば、正直言って、僕、ワニって親近感がわかないんです。

小林 え、ワニ、自然の中で見たことないですか? あれもなかなか優秀な生き物です。川上さんの本は、鳥類学者から恐竜学へのラブレターだそうですので、解説には「ワニ業界の方、ラブレターお待ちしています」って書いたけど、実は僕自身がワニ業界の一員なんです。だからあれは自作自演とも言える(笑)。大学院でもワニの研究をしていました。だから最初はワニサイドから恐竜を見ていたんです。

川上 ワニ…アクティブさがないじゃないですか。だらーっとして。

小林 自然にいるものはかなりアクティブですよ。つやつやして、綺麗ですし。動物園にいるのはくたーっとしてますけどね。

川上 やっぱり安全に守られて、食べ物もいつも貰えてとなると、どんな生き物でもああなっちゃうんですね。海外でも鳥やワニの研究をしている恐竜学者の方は多いんですか?

小林 多いです。ワニで修士、恐竜で博士号を取得している研究者もいます。やっぱり先祖から見ていかないとってことでしょうね。

川上 鳥とワニ、一番の違いは足のついている方向が違うんですよね。鳥は直立、真下についていますが、ワニは身体の横から足が出ています。

小林 ワニも陸上に住んでいた祖先系は直立だったんです。でも水辺に戻ったワニだけが生き残った。それが横から足が出るタイプになった。大きいワニだと、今でも直立に近い感じで歩いていますけどね。その姿は、やはり恐竜に近いですね。

川上 じゃあ片鱗を見せているんですね。足のついている向きって実はすごく重要で、足が下を向いてついていると二足歩行に移行しやすい。恐竜の古いタイプも二足歩行ですね。
やっぱり、恐竜とその祖先を分けるのには、二足歩行かどうかがポイントになります?

小林 直立って実はワニも翼竜も直立で、直立歩行しているのが恐竜というのは、あくまでも判りやすく言ってるだけです。細かく言うとちょっと違うけど、キリがないですから、便宜的にそう言っている。ワニに向かう仲間と、鳥に向かう仲間がいた、その分かれ目に二足歩行があったという感じでしょうか。ただ、ワニよりも恐竜の方が直立歩行において、より効率よく改良が出来たことは確かでしょう。ワニも直立歩行で成功してはいたんですが、這い歩き方タイプだけが結果的に生き残った。

川上 やがて四足歩行の恐竜が現れます。二足歩行から四足に戻ったわけですが、戻ったからこそ、あれだけ恐竜が大きくなれたと言えますよね。あれだけの大きさ、重さに耐えられる四足になったわけですから。

小林 大きさもですが、大事なのは重心です。恐竜の場合は、重心が後ろにあるので、二足、四足って変えやすいんです。哺乳類の場合は重心が前にあるので、前足にぐっと力がいっちゃうので四足から二足になるのは難しい。

川上 恐竜は6600万年前に絶滅しなければ、地球に巨大な隕石が落ちなければ、どこまで大きくなったと思われます?

小林 う~ん、限界は既にきていたんじゃないかな。大きさも限界だったと思うし、体重も40~50トンまできていましたからね。それ以上になると、体温が45度以上になってタンパク質が固まっちゃうので、生きていくことが出来なかったでしょう。

骨についてもいえば、恐竜は、鳥と爬虫類の中間型で、ある程度、骨が空洞化している状態でした。鳥は、骨が中空で、軽量化し過ぎくらい軽量化していますよね。恐竜は、そこまでではなかった。だからこそあそこまで大きくなっても、体重が支えられたのでしょうが、あれ以上は無理だったんじゃないかな。

川上 あの時代に恐竜は、大変に発展していて、地球上のどこにでもいたんですよね。

小林 ええ、海岸線から山奥、赤道から極地にまで、どこにでもいました。

川上 それって、植物の葉や枝を食べる植食の恐竜が多くいたことも要因の一つなんじゃないでしょうか。ティラノサウルスの人気は高いけど、肉食には限界がありますよね、食べ物が少ないわけですから。一方で植食はいっぱい食べ物がある。果実や種子に比べれば、葉は栄養効率は悪いですけどね。鳥で植物の葉を専門に食べるのはツメバケイ一種類しかいません。それゆえ、鳥は恐竜のように世界中を席巻することは出来ないと、僕は思っているんです。植食は効率が悪いからいっぱい食べなければいけなくて、そうすると体重が重くなってしまう。重くなると飛べなくなりますし。

小林 恐竜の場合は、鳥と違って歯がありますからね。口の中でものをかみ砕くことができたから、消化の効率もよかったんでしょう。だから地上のどこにでも行けた。僕は今アラスカの北極圏で発掘していますが、植物もほとんど生えないようなところです。そこにも恐竜が住むことは出来た。だから化石が大量に発見されています。また、鳥の足跡の化石も出てきています。恐竜時代のアジア、北米にそれぞれいた鳥、またその両方にいた鳥の種類や、北上したり南下したりといった動きについての論文も書いています。

川上 勝手に鳥の研究するの、やめて下さいよ!

小林 鳥も恐竜ですから!

川上 いや、恐竜が鳥ですから!

恐竜はなぜ海にいないのか

川上 しかし世界中に恐竜はいたのに、なぜ海に入って行かなかったのか。それが大きな謎の一つですよね。クジラやイルカといった哺乳類、あるいはペンギンなどの鳥類、ウミガメなどの爬虫類も海に進出しているのに、なぜ恐竜だけが海に行かなかったのか。行けなかったのか。それは既に首長竜やモササウルスなどの大型の捕食者がいたからだと言われていますが、鳥へ進化してからは海へ入ったわけですから、それだけでは説明がつかない。なぜ恐竜は海へ入らなかったのでしょうか。

小林 いまだに答えは判りません。

川上 僕もいろいろ考えたんで、きいてもらっていいですか?

小林 どうぞ。

川上 他の海に入った生き物の共通点は肉食なんです。ジュゴンやガラパゴスのウミイグアナが海草や海藻を食べる特殊な例ですが、海の中にはそんなに植物がない。だからアパトサウルスもトリケラトプスも、植食だから、海には入りません。肉食性の獣脚類に限定されます。そしてもう一つの共通点は、二足歩行ではないということです。ウミガメも四足、クジラはカバの仲間ですから元は四足です。他の巨大爬虫類をみても、モササウルスなども蛇に近い系統ですが、元は四肢があった。

小林 プレシオサウルスとかもいますね。

川上 四足歩行だと、移動のためのモジュールが四つあることになりますが、獣脚類は二足歩行なのでモジュールが二つしかありません。恐竜は鳥に進化したことで、翼と足で四つのモジュールがありますので、他の海に入った動物と同じ条件になります。そして推進装置の位置の問題もあります。カイツブリなどは体の後方にある足でこいでいるので、スクリューが後ろにある潜水艦と同じです。ペンギンは前の方にある翼で海中を進むので、体を後ろにたなびかせることができます。しかし獣脚類の場合、二足歩行で推進装置が真ん中になるからバランスが…。

小林 いやいやいや、皆さん、騙されちゃいけません! もう僕、途中から半分位しか聞いてなかったもの(笑)。確かに面白い。肉食しか海中に進出しなかったというのもあるかもしれない。でも、僕はまだ、海へ進出した恐竜の化石が見つかっていないだけなんじゃないかとも思うんです。ハドロサウルスとか、海岸線に住んでいて、流されたんじゃないかと言われたりもしています。同位体を調べることで、陸に住んでいたのか、海にいたのかは判るようになってはいますが、陸にいても生活圏を海に移していたのかもしれませんし。

川上 じゃあ、将来どっちが正しいか、判ったらどうします?

小林 僕が負けたら、川上さんみたいな、赤いジャケット着ますよ。

川上 僕は…どうしたら…。

小林 えっと…川上さんは短パンでお願いします。

川上 じゃあ、夏休みの昆虫少年みたいな格好ということで。会場の皆さんも覚えておいて下さいね(笑)。

小林先生は、海にいた恐竜がまだ見つかっていないのではと仰いましたが、現段階で見つかっているのは、全部の恐竜の中でどれぐらいの割合なんでしょうか。

小林 1%も発見されていないんじゃないでしょうかね。

川上 残り99%はまだこれから見つかる可能性がある。それは本当にワクワクします! 今日、ここに来ているお子さんが、将来、まだ見つかっていない恐竜の発見者になる可能性もあるわけですね。

そもそも、研究者にならずとも、図鑑を見ながら恐竜のことを考えることは出来るし、またそれが実に楽しくもあるんです! 安楽椅子研究者、この本でまさに僕がやったことですが、皆さんにも是非その楽しさを知って頂ければ、それだけでも十分ですが…鳥のことも思って頂ければ、なお嬉しいです。

小林先生、今日は本当に有り難うございました。

(おわり)

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る
川上 和人/著

2018/6/28

公式HPはこちら

恐竜まみれ
小林 快次/著

2022/6/27

公式HPはこちら

川上和人

森林総合研究所主任研究員。1年の約1/3を小笠原諸島で過ごし、残りはつくばで鳥と恐竜と幸せについて考えている。左の紳士がティラノに食べられやせぬか少し心配。著書に『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』(以上、新潮社)など。

小林快次

こばやし・よしつぐ 1971(昭和46)年福井県生まれ。北海道大学総合博物館准教授。アメリカ・ワイオミング大学地質地学物理学科卒。サザンメソジスト大学地球科学科で日本人初となる恐竜の博士号を取得。『恐竜は滅んでいない』『僕は恐竜探検家!』『恐竜まみれ』など著書多数。図鑑監修も多い。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

川上和人

森林総合研究所主任研究員。1年の約1/3を小笠原諸島で過ごし、残りはつくばで鳥と恐竜と幸せについて考えている。左の紳士がティラノに食べられやせぬか少し心配。著書に『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』(以上、新潮社)など。

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小林快次

こばやし・よしつぐ 1971(昭和46)年福井県生まれ。北海道大学総合博物館准教授。アメリカ・ワイオミング大学地質地学物理学科卒。サザンメソジスト大学地球科学科で日本人初となる恐竜の博士号を取得。『恐竜は滅んでいない』『僕は恐竜探検家!』『恐竜まみれ』など著書多数。図鑑監修も多い。

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