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料理は基準

2025年1月24日 料理は基準

第23回 菜っ葉は冬(12月7日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 白菜、葱、ほうれん草、キャベツ、小松菜。これらは気温が下がるほどにうまくなる。冬は菜っ葉の季節だと知っておれば迷いはいらない。

 それぞれの土地に独特の菜っ葉がある。福井の水菜(朝鮮菜)、新潟の雪菜、大阪のしろ菜、鯨と煮る水菜、京都の壬生菜、それぞれの土地の菜っ葉を食べれば、ここに帰ってきたと思うほど、懐かしさを覚える。

 鍋ものに欠かせない菊菜を、春菊ともいう。関西の菊菜は、名の如く菊の葉のように切り込みが丸く、肉厚でふんわりしている。鍋に入れ、色が変わればすぐ取り出して、食べるのが原則だ。

 ほうれん草のおひたしは、三月頃まで毎日食べたい良い料理だ。ただ湯掻いて水に落とすだけ。茹でたてはぎゅーぎゅー絞らない。葉を潰さない程度、水気がたれない程度に絞り、皿に乗せる。出来たてのうまさとは、生まれたての純粋だ。できればピンク色の削りがつおを軽く炒ってパリパリにさせて添え、食べる人が自分で醤油をかける。

 茹でたてであれば、水もおいしい。時間を置く弁当の場合は、ぎゅーと水気を絞り切る。食材から分離した水分は、自由水(ドリップ)と言われ、雑菌の巣になる。

 否、だし汁にひたすから「おひたし」だ、と思いこむ人がいる。そもそも家の料理に名などない。名前をつけるのは商売やすぐ食べられない大所帯の必要からだ。料理屋では仕込みの必要から、塩をしただし汁にひたす。こうして家で作るただ湯掻いただけのほうれん草も「おひたし」になった。

 ほうれん草は味が濃いが、持ち味もアクも少ない菜っ葉の小松菜、白菜は、煮干しや油揚を入れて煮る「煮びたし」にする。これも「おひたし」。

 

*次回は、1月31日金曜日配信の予定です。

 

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 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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