第23回 菜っ葉は冬(12月7日筆)
著者: 土井善晴
『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。
白菜、葱、ほうれん草、キャベツ、小松菜。これらは気温が下がるほどにうまくなる。冬は菜っ葉の季節だと知っておれば迷いはいらない。
それぞれの土地に独特の菜っ葉がある。福井の水菜(朝鮮菜)、新潟の雪菜、大阪のしろ菜、鯨と煮る水菜、京都の壬生菜、それぞれの土地の菜っ葉を食べれば、ここに帰ってきたと思うほど、懐かしさを覚える。
鍋ものに欠かせない菊菜を、春菊ともいう。関西の菊菜は、名の如く菊の葉のように切り込みが丸く、肉厚でふんわりしている。鍋に入れ、色が変わればすぐ取り出して、食べるのが原則だ。
ほうれん草のおひたしは、三月頃まで毎日食べたい良い料理だ。ただ湯掻いて水に落とすだけ。茹でたてはぎゅーぎゅー絞らない。葉を潰さない程度、水気がたれない程度に絞り、皿に乗せる。出来たてのうまさとは、生まれたての純粋だ。できればピンク色の削りがつおを軽く炒ってパリパリにさせて添え、食べる人が自分で醤油をかける。
茹でたてであれば、水もおいしい。時間を置く弁当の場合は、ぎゅーと水気を絞り切る。食材から分離した水分は、自由水(ドリップ)と言われ、雑菌の巣になる。
否、だし汁にひたすから「おひたし」だ、と思いこむ人がいる。そもそも家の料理に名などない。名前をつけるのは商売やすぐ食べられない大所帯の必要からだ。料理屋では仕込みの必要から、塩をしただし汁にひたす。こうして家で作るただ湯掻いただけのほうれん草も「おひたし」になった。
ほうれん草は味が濃いが、持ち味もアクも少ない菜っ葉の小松菜、白菜は、煮干しや油揚を入れて煮る「煮びたし」にする。これも「おひたし」。
*次回は、1月31日金曜日配信の予定です。
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土井善晴
1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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とは
はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。
「考える人」編集長
松本太郎
著者プロフィール
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- 土井善晴
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1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。

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