最終回 日常の料理(12月28日筆)
著者: 土井善晴
『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。
日常の料理はレシピに頼らない。それじゃ現代人は何もできないという人があるが、私たちはそうして、何かに託してばかりいたから、何にも自分でできなくなった。人間は料理する動物なのだから、だれもが料理できるはずだ。
まずご飯が炊けて、味噌汁が作れればいいと何度も言った。味噌汁は濃くても薄くても熱くても冷たくても、おいしいから心配無用。味噌は自然の産物で、人間業じゃないからだ。これだけで毎日「ああおいしい」と言える。
料理は、自然の(一部である人間の)摂理だと考える。生きるための料理は一汁一菜にまかせる。家族に食べさせてやりたいと思って料理をするのは愛だ。自分の意思で作る料理は、すべてが喜びを生む楽しみなのだ。
和食の調理とは、季節の野菜や魚を、食べられるようにする「一次加工」といえる。ゆえに、和食は食材を活かす料理だと定義づける。混ぜない、味つけない。おいしくしようなんて思わず、食材を傷つけない。まずくしないためには、手早くていねいに。余計なことはしないのが日常のお料理だ。
あぶる(焼く)、ゆがく(茹でる・煮る)、いる(炒める・揚げる)、ふかす(蒸す・蒸し焼き)、なます(生・塩にする)が和食の調理法だ。魚はシンプルに焼くか煮る。鮮度が飛び切りよければ、蒸すか、刺身。野菜は茹でる煮る、炒めたり揚げたりも。一つの食材をきれいにし、一つの調理法で加熱する。おいしそうに火が入るのをじっと見て、五感を使って食材と対話する。
味つけ以後の「二次加工」は、食べる人による調理となる。和えるのも、味つけも、それぞれ好きなように食べればよい。(了)
*本連載は、本年の秋頃に書籍化を目指す予定です。ご愛読に感謝いたします。
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土井善晴
1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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とは
はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
「考える人」編集長
金寿煥
著者プロフィール
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- 土井善晴
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1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。

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