第24回 餅つき(12月14日筆)
著者: 土井善晴
『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。
餅はつくもの。米の心白と言われる芯部を杵でつきこむことで、粘りやコシが出るので、断然だ。今では、機械で餅にしたもので済ますことも多いよう。でも、杵でついた餅のおいしさは格別で、幼い頃にそれを知ると、ものの味がよくわかるようになる。
近所の子どもが、我が家の餅つきに三歳から毎年参加して大学生になった。見て食べるだけだった幼児が、少し大きくなって、子ども用の軽い杵を大人に支えられてはじめて餅をつく。大人のすることを見て、臼をタワシで洗って、手水を替えたり、餅を丸めたり、教えなくてもできるようになる。一人でつけるようになったときは、ちょっと誇らしげだった。今では大人用の重い杵を振って、立派に餅をつける男になった。
蒸す餅米の白い湯気といい匂い。臼の傍の盛り塩。杵を振り下ろす調子に合わせて、ヨイショ、ヨイショ、みんなで声を合わせると楽しい。上手な人がつけば パンッといい音がする。なにしろしっかりした体幹はかっこいい。
米粒はだんだん餅になり、つき手は順々に代わりあってつき上げる。つき上がるころ、餅が真っ白になって光るのは、美しい。この白い餅を高く持ち上げて、餅板にドンとおく。大人が小さくちぎった餅を、子どもたちが手粉をつけて丸く丸める。つきたての餅のおいしさは清く、心を温めるものだ。葱味噌で食べてみよう。あん餅は二つ目も。
杵と餅がぶつかる心地よい音、その匂い、その白さ、その柔らかさ、つきたての餅の風味、すべてに心が躍る。子どもは年越しの餅つきをけして忘れない。一年に一度の習わしは、良き人を育てることだ。子どもの頃から餅をついてきた私が子どもたちにできること。
*次回は、2月7日金曜日配信の予定です。
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土井善晴
1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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とは
はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。
「考える人」編集長
松本太郎
著者プロフィール
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- 土井善晴
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1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。

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