表紙は真新しいスニーカーのイラストです。箱から取り出し、あのかぐわしい匂いをふかく吸って、はやる気持ちを抑えながらヒモを通します……。この夏で創刊十五年目を迎える「考える人」を、さぁ少しリフレッシュしよう、という気持ちを、武政諒さんがこの絵で表現してくれました。

 雑誌のリニューアルは、一九九八年三月に手がけた経験があります。それは幸い成功しました。いまも元気なその雑誌の姿を見ると、大きな手術を執刀したドクターの心境を思います。自分の力? いえいえ、あらゆる意味で幸運の神さまが味方してくれたと思うのです。

「考える人」は二〇〇二年七月にplain living & high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)を理念に掲げ誕生しました。創刊編集長を務めた作家・編集者の松家仁之さんは「創刊にあたって」を次の言葉で締めくくっています。

〈たまにはテレビを消して、身の回りも整理して、一人の「わたし」に戻り、自分の言葉と生活を取り戻したい。溢れるモノや情報をいったんせき止めて、ひと息つきたい。思考する頭に新鮮な空気を送り込みたい。そんなあなたのために用意する、小ぶりの静かな部屋に季刊誌「考える人」はなりたい、と考えています〉

 二〇一〇年七月からそのバトンを受け継いだ私ですが、いまもこの言葉を大切にしています。ただ状況に変化があったとすれば、「テレビ」ではなく、「スマホ」の画面からいったん目を離し、というところでしょう。そして、十五年目の新たな一歩を刻もうとすれば、小ぶりの静かな部屋から出ること、人に会いに行くことを、より積極的に心がける時期ではないか、という点です。その意味で、シンボルマークの椅子は、そこに坐ってひと息つく場であるだけでなく、そこを離れ、〝考える人〟に会いに出かける行動の起点でもあるのです。

 今号の特集は「12人の、『考える人』たち。」です。誌名と同語反復になるわけですが、「デジタルエデンの園」(アリアナ・ハフィントン)の中で生きることを余儀なくされているこの時代に、「考える」という行為をそれぞれの「現場」で持続している「人」に焦点を絞り、その人ならではのテーマ、その思考スタイルを紹介していきたいと考えました。12人という数に特に意味があるわけではなく、「自分の頭で考える」際の貴重な示唆を与えてくれる人物を、老若男女、私たちが選んだ結果です。

 多岐にわたる方々ですが、それぞれの「いま、ほんとうに大切なこと」を語っていただきました。今後の弊誌がどういう〝考える人〟たちとともに歩んでいこうとしているか、その一端を示したつもりです。

 さて、この号から雑誌の定価を九百八十円にしました。思い切った値下げです。「この時代、千四百四十円の雑誌を買うのは躊躇してしまう」という読者の声を受けたことに加えて、私は雑誌を究極のコミュニティ・ビジネスと考えています。「考える人」という〝雑誌〟が生み出す空間に多くの人が参加する入場料は安いに越したことはないのです。そのためのギリギリの努力をいたしました。年間で四冊三千九百二十円という価格設定は、SMAPのファンクラブの年会費四千円を下回ります(だからどうした、と言われそうですが)。是非「考える人」の誌面を通して、いろいろ「考える」きっかけと出会い、知の対話をしていただきたいと願います。これまでの愛読者の方にも、これからの読者の方々にも。

 最後に―。「Webでも考える人」を同時に立ち上げます。「考える人」という存在により頻繁に接していただくための、窓を大きく開きたいと思うからです。そして、ライブのイベントも定期的に行っていこうと思います。ほぼ日替わりのサイトと、月一ペースのイベントと、従来通りの季刊誌と、三つの流れの総体として、十五年目の「考える人」は歩き出します。スニーカーのヒモをしっかり結んで、軽快に出かけてみたいと思います。

(河野通和)