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川上和人(森林総合研究所主任研究員)×高柳明音(SKE48) 『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』刊行記念対談

小笠原諸島をフィールドに研究を続ける職業鳥類学者・川上和人を悩ませるのは、爆発する火山の溶岩、耳に飛び込む巨大蛾、そして襲い来るウツボにネズミの大群! さらに、吸血カラスや空飛ぶカタツムリまで現れて…驚きの生態と、それより驚きの鳥類学者の実態を綴った『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』の刊行を記念して、ラカグで特別授業「鳥類学者という蛮族がいた!―知られざるその生態、または鳥たちは誰についていくのか」が開催されました。

今回、ゲストとして登場していただいたのは、自称「鳥がいないと生きていけない系女子」、SKE48の高柳明音さん。ツイッターは公式以外に鳥専用のアカウントも持つほどの鳥好きの高柳さんが、鳥のために想像を絶する生活を送る鳥類学者とどんな鳥トークを繰り広げたのか!?

爆笑の渦を巻き起こしたトークイベントの様子を前篇、後篇の2回に分けてお届けします!

 

川上 今日、僕らは何の打合せもしていないのに、二人とも「鳥柄」の服なんですよね。

高柳 はい、私は生きてる鳥模様のワンピースで…。

川上 僕は死んでる鳥、もとい骨格標本柄のTシャツです。奇しくも、使用前、使用後みたいになってます(笑)。
 僕は、鳥に携わる人には3種類いると思っているんですね。1つには、僕らのような研究者、それから「野鳥の会」など、野生の鳥の観察を中心とするバードウォッチャー、最後に高柳さんのようなペットバードを愛する方々で、実は最も鳥愛が深いのがこの方々ではないかと。
高柳さん、いったい全体、鳥のどこがいいんですか?

高柳 先生がそれを訊くんですか(笑)。
最初は、カラスだったんです。

川上 カラス?!

高柳 はい。ある時、道を歩いていたら、本当に不思議なんですけど、カラスが一緒に歩いてくれたんです。

川上 飛ばずに。

高柳 そう、ちょんちょんって、前を歩いてくれて。

川上 なぜ飛ばない(笑)。

高柳 そのカラスが時々、こちらを振り返っては、また歩いていくんです。結局、家までずーっと一緒で。家に入る時、バイバイするのが寂しくて、それで一緒に暮らせる鳥がいないかなと思って探したのが、きっかけですね。
今はオカメインコやコザクラインコ、セキセイインコをお迎えして、一緒に暮らしています。

川上 そのカラスにしても、そうなんですけど、鳥って意外と皆さん思ってるほど、飛ばないんですよ。移動のためにやむなく飛んでるだけで、たとえばカラスなんて、一日のほとんどを電柱の上やら、木の枝やらにとまって過ごしています。

高柳 ペットバードでは地面の上を歩く子がいますね。肩の上にとまったりとか。

川上 そう、飛ぶってやっぱり膨大なエネルギーを使うんですね。野生の鳥は、言ってみれば生きるか死ぬかの時、食べ物を得られるかどうかといった、どうしても飛ばざるをえない理由があるから、仕方なく飛ぶんです。その証拠に、キツネやイタチなどの野生の捕食者がいない島へ行くと、鳥がもう途端に飛ばなくなる。進化の方向がほぼ飛ばない方へ、飛ばない方へと。それからダチョウなんかは体が大きいですよね。猫がダチョウを襲ったら…。

高柳 ダチョウが勝ちますよね。

川上 そうすると、捕食者がいる場所でも、体が大きければ狙われても負けませんから、やっぱり飛ばなくなるんです。飛ぶ必要がなければ飛ばなくなる。やつらは気を抜くと、すぐ飛ばなくなっちゃうんですよ! 30分ぐらい鳥を観察してみて下さい。ほとんどの時間は飛んでません。

高柳 飛ぶって交通手段、移動手段ですものね。

川上 そうです。バイクだってほとんど止まっているでしょう。ずっと走っているかといえば、ほとんどの時間、ただ止まっているだけ。嘘だと思われたら、車庫にあるご自分の車を観察してみて下さい。

高柳 駐車してる車を、持ち主が観察してるんだから、そもそも動かない! どんなたとえですか(笑)。

 

 

ピンチの時に進化する

川上 高柳さんが飼われているインコって、実は鳥の中でもすごく変わっている種なんですよ。

高柳 人になつきやすいんですよね。頭がいいんでしょうか?

川上 すごく頭がいいんです。頭も大きいでしょう。そして頭が大きい動物って、なぜかかわいく見えるんです。でも、頭がいいって本当は大変なことなんですよ。インコの頭がよくなったのにも理由があるはずです。脳自体は、タンパク質と脂肪のかたまりで、多くの栄養を使っています。飛ぶのと同じで、頭を使うのは、やはり大変なエネルギーがいる。

高柳 どうやったら頭ってよくなるんだろう。頭がよくなりたい!

川上 頭がよくなりたいという欲望を持っている時点で、もう既に頭がいいんです。
 そもそも鳥は、恐竜から進化したのですが、その恐竜にしても、植物食で食物が足りている種では、脳が小さいんです。莫大なエネルギーがかかる脳、多大なコストがかかる脳なんて、必要なければいらない。けれども、大型の動物を狩る肉食になると、必死で逃げる獲物を追わなきゃいけないので、脳が進化したんだと考えられます。草食恐竜に比べると肉食恐竜は脳がとても大きくなっています。鳥は恐竜に比べれば、体こそ小さくなったものの、頭はさらによくなっている。それはよくならざるをえない何か、理由があったからです。

高柳 その理由は何なのか、判ってるんでしょうか?

川上 判んないです(きっぱり)。

高柳 そんな即答で(笑)。

川上 たとえば、インコの原産地であるオーストラリアの茂みの中で、食べ物を探している時に、頭が悪い個体は何らかの理由で死んでしまい、頭のいいのが生き残ったんだな、そう思いながら僕はインコを見ています。

高柳 インコを見ながらそんなことを(笑)。そういえばカラスって頭がよくて、5歳児程度の知能だといいますよね。

川上 そうですね、それはカレドニアガラスという種類の研究で、この鳥では、なんと道具を使うことが観察されているんです。木の穴の中にいる虫を釣るために、枝を加工したりする。残念ながら日本のハシブトガラス、ハシボソガラスについての研究ではないんです。

高柳 カレドニアガラス! ハシブトガラス、ハシボソガラスしか知りませんでした。

川上 世界中に沢山の種類のカラスがいるんですよ。中でもカレドニアガラスは、天国に一番近いカラスって呼ばれています。
 このカレドニアガラス以外にも、キツツキフィンチ、ササゴイ、アナホリフクロウなども道具を使うことが知られています。キツツキフィンチはガラパゴスにいる鳥で、やはり木の枝で虫を捕ります。アナホリフクロウは、穴を掘って巣を作りますが、その自分の巣の前に動物の糞をおいて、そこに集まる虫を捕って食べる。共通するのは、厳しい環境に生きる鳥ということです。島や乾燥地帯など、食べ物が少ないところで生活しているんですね。
 だから頭がよくなったということは、そうでないと生き残れないほど環境が厳しかった可能性があります。まあ、ちょっと馬鹿なくらいが、実はハッピーに生きられている証拠なのかもしれません。

高柳 馬鹿がいいか、賢い方がいいか、う~ん。でもピンチの時の方が、可能性って開けたりしますもんね。

川上 そうです。逆に今のままで何とかなるなら、生き物は基本的にそのままなんです。ピンチの時だからこそ変化、進化する。僕ね、実は高柳さんにお土産もって来たんですよ。

高柳 このタイミングで、ですか!

 

―おもむろに、カバンからインコとハシビロコウのかぶり物を出す川上センセイ。

高柳 これ、欲しかったものです!

川上 よかった。嫌われたらどうしようと思いました。

高柳 インコって、定期的に爪を切らなきゃいけないんですけど、一度爪を切った人間を「こいつは爪切るやつだ」=嫌なことするやつだって絶対に忘れないんです。だから、これで顔面を覆って爪を切れば大丈夫なんだそうで、探したんだけど、なかなか売ってなかったんですよ! 有り難うございます。

川上 かぶってみましょう。…蒸し暑いですね。高柳さんのインコは口部分が開いてて、喋りやすそうですね。

高柳 センセイはラッパーみたいになってますよ。

川上 ハシビロコウのかぶり物はここ(目の横あたり)しか穴が開いてないから、ここからマイクで音を拾うしかないんです。ところで高柳さんは鳥の舌って好きですか?

高柳 ベロ好きです。鳥の舌って可愛いですよね~。

川上 鳥の舌って見ると面白いんですよ。花の蜜を吸うメジロやヒヨドリなどは、先端が竹箒みたいになっている。ペンギンの舌はとげとげだらけで、平らなところが全然無い。食物の種類や採る場所に適応して変化してきたんです。今日は舌の標本を持ってこようかと思ったんですけど、ちょっと怖がられそうなのでやめて、翼の標本を持ってきました。

 

―おもむろに、鳥の翼の標本を出す川上センセイ。

川上 これ、トビの翼です。もう、脱いでいいですかね、ハシビロコウの頭に、トビの翼持ってるのも変だから。ああ、暑かった。高柳さん、この翼を触ってみて下さい。大きくて薄いでしょう。

高柳 本当だ! そして固いんですね!

川上 そうなんです。体重を支えて飛ぶための道具なので、丈夫なんです。羽の先端部分が分かれてて、指みたいになってるのも判りますね。一方、こちらの翼。

 

―もう1つ鳥の翼の標本が登場。

高柳 何でも出てくるカバンですね(笑)。

川上 これはミズナギドリという鳥の翼で、グライダータイプ。トビはしばしば羽ばたきますが、ミズナギドリはずーっと滑空しますから、翼の形も全然違う。立体的でしょう?

高柳 本当だ、全然違いますね。

川上 ところで高柳さんは、鳥の骨の部分では、どこが一番お好きですか?

高柳 考えたくもありません!

川上 僕は上腕骨です。

 

―カバンから出てくる大きな骨。

川上 これはモモイロペリカンのモモちゃんの上腕骨です。残念ながらお亡くなりになったので、僕が骨格標本にさせて頂きました。持ってみて下さい。軽いでしょう? 骨の中身が空っぽなんです。そしてこっちがイノシシ。

高柳 イノシシはずっしりと重い!

川上 鳥の骨は、飛ぶために極限まで軽く出来ているんですね。これはニワトリの骨です。

高柳 今度は、ポッケから出てきましたよ!

川上 普段、皆さんが見慣れているチキンの骨は、若鶏の骨です。髄が入っていて、軟骨もある。ところがこれが親鳥になると、つるつるになって髄も軟骨も無くなり、軽くなります。焼き鳥を食べに行くと、やげん軟骨なんて軟骨が出てきたりしますよね。

高柳 三角の。

川上 そう、あれは胸の部分の軟骨です。

高柳 若鶏って大体どれぐらいの月齢を指すんですか?

川上 若鶏は大体2、3ヶ月で親と同じ大きさになります。メジロなんて、卵から孵って2週間ぐらいで、親と同じ大きさになる。鳥って早く先に成長する生き物なんですよ。ところが体が大きくなっても、中身、骨の成長がついていかないんです。つまり骨が軽くなるのは、成長の証しなんです。

高柳 センセイ、さっきから翼の標本、足下で踏んでますよ。

川上 散らかしちゃいましたね。もう1つ翼出しましょう。これ、ぶんぶん振ってみて下さい。

高柳 音がしない!

川上 フクロウの翼です。獲物になる動物を狙うのに、音がするとばれますから、羽ばたき音がしない構造になっています。

高柳 静かに飛ぶんですね。目をつぶれば、生前のお姿が…。

川上 全部、死んでるんですけどね。

高柳 そんなこと言わないで下さい!

川上 そしてさっきのトビ、これは音がします。

高柳 ばっさばっさ、しますね~翼1つで、こんなに違うんですね。どんな匂いなんでしょう。

川上 高柳さん、さっきからちゃんと匂いを嗅ぐんですね。感心です!

高柳 フクロウの翼は匂いがないです。

川上 捕食者は匂いがあると獲物に気付かれちゃうんですね。だからフクロウの翼には、匂いがないんです。獲物になる鳥もやはり捕食者に見つかると困るので、匂いがしません。

高柳 そういえば、羽毛布団ってありますよね、あれってどんな鳥なんですか?

川上 いろいろありますけど、ホンケワタガモという種類の鳥の羽毛が、最高級クラスとされています。彼らは巣を作るのに、自分の羽毛を使うんです。それもダウンといって、もやもやしてて、柔らかい羽毛です。外側の大きな羽毛の下に生えてる、小さくて芯のない、タンポポの綿毛みたいな羽毛。それを集めて、ふわふわの巣材にします。
 一方、ダウン以外にも、フェザーという羽毛があります。真ん中にすっと茎のようなものが通ってて、羽ペンに使われる羽毛を思い出して貰えればいいのですが、ちょっと大きな、いわゆる「羽」っぽいやつです。枕やダウンジャケットなどから、飛び出してくることもありますね。ダウンジャケットとうたってても、ダウンじゃなくて、実はこのフェザーが入っている場合もあります。そうすると安く作れますから。まあ、お値段なりにというところです。

高柳 羽毛にも順位があるのか…神セブンとかあるんですかね。

川上 (笑)…総選挙、近いんですよね…。

高柳 神セブン、なりた~い(笑)!

 

(撮影・平野光良)

川上和人

森林総合研究所主任研究員。1年の約1/3を小笠原諸島で過ごし、残りはつくばで鳥と恐竜と幸せについて考えている。左の紳士がティラノに食べられやせぬか少し心配。著書に『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』(以上、新潮社)など。

高柳明音

高柳明音

1991年、愛知県出身。SKE48 Team K所属。2015年AKB48 41stシングル選抜総選挙にて14位にランクインし初選抜入り。2016年4月「TOKYO IDOL NET」にてカメラマンデビュー、またバードライフアドバイザー3級の資格を持つ、自他共に認める鳥好き。ニックネームはちゅり。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

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著者プロフィール

川上和人

森林総合研究所主任研究員。1年の約1/3を小笠原諸島で過ごし、残りはつくばで鳥と恐竜と幸せについて考えている。左の紳士がティラノに食べられやせぬか少し心配。著書に『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』(以上、新潮社)など。

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1991年、愛知県出身。SKE48 Team K所属。2015年AKB48 41stシングル選抜総選挙にて14位にランクインし初選抜入り。2016年4月「TOKYO IDOL NET」にてカメラマンデビュー、またバードライフアドバイザー3級の資格を持つ、自他共に認める鳥好き。ニックネームはちゅり。

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