第10回 味噌汁にトーストという大問題(9月7日筆)
著者: 土井善晴
『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。
味噌汁にパンを入れるなんて⁉︎
西洋料理ならポタージュスープにクルトンを浮かべることで、和食なら汁に麩を浮かべることだから、なんの違和感も私にはない。だが、パンを入れることを面白がる、テレビディレクターに聞いてみた。
「どうして味噌汁にパンを入れたらいけないと思うのですか」
味噌汁にパンを入れたら怒られそうだと言う。彼は誰に叱られるのだろう。
それが若い人にとっての常識なのだろうか。常識が他者との共通善なら、パンを入れることは悪、罪にもなる。人間は一人で罪を犯せるか。罪とは神への冒瀆であり、他者への冒瀆だ。他者とは自然であり、人であり、物である。
味噌汁とトーストという朝ごはんの献立で、自分でバターを塗ったトーストを味噌汁に浸して食べた。フランスの人が硬いパンを焼き直し、カフェオレに浸して食べるのと同じだ。とはいえ、飲食店で、味噌汁にトーストを突っ込んで出されたら、私はたぶん怒ると思う。お茶漬けも、お茶をかけて出されたら嫌だなと思う。それは自分ですることだ。
食事とは、料理して食べること。食べるだけなら動物と同じ野性だと思う。料理という理性が野性を制御する。理性は秩序を守っているからこそ、その中に自由がある。
人間の進化の出発点は野性だ。だが、だから野性は素晴らしい、自由はすばらしい、とは言えない。都合の良い自由は破壊に繋がり、傲慢な自由は戦争になる。
一人で食べるだけなら、好き勝手にして構わない。けれど、味付けは自由ではいけない。そして、料理する人の工夫、味付けはクリエーションだが、万人を喜ばせるものではないのだ。
*第11回は、10月18日金曜日配信の予定です。
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土井善晴
1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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とは
はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。
「考える人」編集長
松本太郎
著者プロフィール
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- 土井善晴
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1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。

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