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料理は基準

2024年10月4日 料理は基準

第9回 夏のかぼちゃ(8月31日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 今、全国で出回っているつるりとした早生のえびすかぼちゃは、甘いパイにもなる西洋種のかぼちゃだ。「どてかぼちゃ」「おたんこなす」「だいこんあし」などと野菜が悪口のたねになるのは、親しみのある野菜ならではのこと。お料理する人はよく育ったかぼちゃを両手で抱えて、重さを確かめ「ええ顔してるなぁ」と不細工さを喜んで熟し加減を見極める。昔のかぼちゃは堅かった。男でも手を湿らせしっかり握って包丁する。食べづらい硬い皮を所々剥いて面取りすると、緑と黄色のコントラストのよい煮物になった。

 ところが、この頃のかぼちゃは小綺麗で、皮も薄くて柔らかく、切りやすくて煮えやすい。だから、皮も剥かず大ぶりに切って鍋に入れ、かぼちゃの量(かさ)の七分目くらいまで水を入れ、鰹の削り節を一つかみ入れ、火にかけて落とし蓋。かぼちゃに、串を打って煮え加減を確かめ、およそ火が入っていれば砂糖を加え、しばらくしてから醤油を垂らしてさらに煮る。煮汁を残して火を止める。粗熱が取れるまで置いてから鉢に盛る。鰹の削り節を直に入れるから「直がつお煮」で、他の根菜に応用が利く。

 武者小路実篤がよく描いたのは日本種とされる菊かぼちゃだ。淡い黄色でキメが細かい果肉は口当たりがよくみずみずしい。生姜を利かし鶏ひき肉と共に煮て、砂糖と薄口で味付け、ひき肉とかぼちゃがからむように煮汁を葛でとじる。菊かぼちゃと旨味の濃いひき肉のあんはよい取り合わせで、日本の夏のおかずの気持ちよさがある。みずみずしさとは、日本の「清らか」というおいしさだ。

 

*第10回は、10月11日金曜日配信の予定です。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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