シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

料理は基準

2024年11月15日 料理は基準

第15回 新小豆(10月12日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 北海道、美瑛のマーケットで新小豆を見つけた。関西よりひと月くらい早いだろうか。新物だとすぐにわかるのは、ピカピカに光ってきれいだから。求めてすぐ煮た。

 朝ごはんにと思ったから、前夜、茶碗に軽く一杯分をとって、ザラザラと洗って、小鍋に移し、かぶるくらいの水に浸けおいた。 

 朝、中火にかけて、煮立てば一度茹でこぼし。

 茹でこぼしというのは、アク抜きのためで、きれいな水に取り替えてまた煮始める。

 再び水をかぶるくらい入れて中火で煮ると、煮立ってから10分か、15分くらいで柔らかくなっていた。これ以上煮ると煮崩れるので、砂糖を適当に入れて5分ほど煮て火を止めた。小豆が固いうちに砂糖を入れると柔らかく煮えない、柔らかくなってから入れると煮崩れしにくい。

 昨夜の栗ご飯の残りを丸めて、油もひかずフライパンに押し付けて、焼き色をつけてせんべいにした。椀に(よそ)って、初物のぜんざいをさらり。炊き立ては風味が断然。残りのぜんざいは、冷蔵庫に取り置いた。冷たくしたぜんざいは、とろりとしてまたおいしい。冷たくすると甘味が薄く感じられたので、粉末の和三盆をかけた。

 「小豆は水に浸けて戻さずに煮る」のがセオリーとなっているのはなぜか。

 疑問に思って老舗のご主人に電話をして尋ねた。「もう新物が出てたんですか…あっ北海道ですか…丹波の小豆は新物でも、くすんだ感じでキラキラ光りません…小豆を水で戻すと早く煮えますが、味が落ちるといわれます。祖母からも、父からも、そない聞いています。うちは、小豆は戻さんと直に炊いてます」と教えていただいた。

 

*次回は、11月22日金曜日配信の予定です。

この記事をシェアする

ランキング

MAIL MAGAZINE

「考える人」から生まれた本

もっとみる

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき
  •  

考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


ランキング

イベント

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき

  • ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号第6091713号)です。ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら