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料理は基準

2024年11月8日 料理は基準

第14回 ご飯をおいしく(10月5日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 新米だ。山間の田圃は水が冷たくて収量が少ないがいい米がとれる。そんなお米をいただいた。こういう特別なお米を炊くときは、夕食でも、主役になるおかずを作らない。ご飯をメインに食べる。魚や肉のおかずがあるとせっかくのご飯がもったいないと思うようになったからだ。

 ご飯をおいしく食べるために、あればいいなと思うのは、少しばかりの塩気の強いもの。古漬けのはりはり、佃煮、冷蔵庫に、たしか瓶詰めのウニか、鯖のへしこがあったかな…あれば最高だが、何にもなくても、梅干、海苔か味噌といった定番と、なにかひとつ、歯切れの良い奈良漬か三年物の沢庵があればいい。

 あとは味噌汁だが、そもそも私たちの食事とはこんなものだろう。もともと日本には「魚とお肉どっちがいいか」なんていうメインディッシュ(主菜)という概念はない。一汁一菜を知れば、自身で工夫でき、暮らしはシンプルになる分、心が豊かになる。

 上質なお米を昭和の頃は寿司米とした。炊き立てのご飯を酢飯にする。寿司はご飯が大事だ。炊き立てのご飯を、大きめの鉢に取り、米酢をじゃー、塩をさらさら、砂糖を匙ですくい、入れたら、しゃもじでさっくりと混ぜる。混ぜむらがあってもよい。いい米酢、自然の海塩、よい調味料、米がよければどう転んでもおいしい酢飯ができる。

 四切りの焼き海苔、おろしわさび、千六本の胡瓜、甘辛く煮た椎茸の短冊、卵焼き、あとひとつ刺身の短冊か、小エビのボイルとか、あとは自分で考える。なんでも合うが種類は少なめがよい。ご飯が主役の手巻き寿司はやはり楽しくて、二人で二合をペロリ。

 

*次回は、11月15日金曜日配信の予定です。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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