第13回 稲という植物(9月28日筆)
著者: 土井善晴
『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。
夏の田んぼを眺めていたら、あれは稲なのかなんなのかとわからなくなった。稲の背丈が短くなって、田んぼの景色が変わっていたのだ。調べたら、短稈といって、雨風に倒れないように稲の茎が短く改良されているようだ。稲は、倒伏すると実らず収量を減らす。
ところで、景色を眺める人が少なくなったように思う。車窓から景色を見ているとさまざまなことに気付く。季節の移ろいに気付き、変化を知ることを、もののあはれという。他者を基準にして、今、自分がどこにいるかを知る。植物のとき(時)といっしょに在ることで、時間はゆっくりになる。仕事に追われ、時計の時間に支配されていた頃は、あまりに無機的で、心に何も留まらず、一年が半分くらいに感じ、あっというまだった。もののあはれを知ると、人生は濃密になる。
「稲」は収穫して、脱穀して乾燥機にかけ、「籾」になる(昔は稲のまま「はざかけ」で乾燥)。籾すりして「玄米」になり、精米して「白米」になる。米を洗って笊にあげ、吸水した洗い米を水加減して、「ごはん」を炊く。
一つの植物で、これほど名前が変わるのは、よほどこの植物と親しくしてきたからだ。稲作で一年の過ごし方が決まり、政ができて、この列島人の逞しさ、ものの考え方や感じ方ができた。
稲についた黒いもの(麹菌)はどう利用に至ったのか。清潔なところにしか降りてこない麹菌(アスペルギルスオリゼ)は国菌になった。麹菌は米を「清酒」にし、「米酢」にする。田んぼの畔で作った大豆と塩で「米味噌」、そして「醤油」「味醂」ができた。全ての調味料は米から生まれる。米粒の中にはやっぱり神様がいると思う。
*次回は、11月8日金曜日配信の予定です。
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土井善晴
1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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とは
はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。
「考える人」編集長
松本太郎
著者プロフィール
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- 土井善晴
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1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。

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