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料理は基準

2024年11月1日 料理は基準

第13回 稲という植物(9月28日筆)  

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 夏の田んぼを眺めていたら、あれは稲なのかなんなのかとわからなくなった。稲の背丈が短くなって、田んぼの景色が変わっていたのだ。調べたら、短稈(たんかん)といって、雨風に倒れないように稲の茎が短く改良されているようだ。稲は、倒伏すると実らず収量を減らす。 

 ところで、景色を眺める人が少なくなったように思う。車窓から景色を見ているとさまざまなことに気付く。季節の移ろいに気付き、変化を知ることを、もののあはれという。他者を基準にして、今、自分がどこにいるかを知る。植物のとき(時)といっしょに在ることで、時間はゆっくりになる。仕事に追われ、時計の時間に支配されていた頃は、あまりに無機的で、心に何も留まらず、一年が半分くらいに感じ、あっというまだった。もののあはれを知ると、人生は濃密になる。

「稲」は収穫して、脱穀して乾燥機にかけ、「(もみ)」になる(昔は稲のまま「はざかけ」で乾燥)。籾すりして「玄米」になり、精米して「白米」になる。米を洗って(ざる)にあげ、吸水した洗い米を水加減して、「ごはん」を炊く。

 一つの植物で、これほど名前が変わるのは、よほどこの植物と親しくしてきたからだ。稲作で一年の過ごし方が決まり、(まつりごと)ができて、この列島人の逞しさ、ものの考え方や感じ方ができた。

 稲についた黒いもの(麹菌)はどう利用に至ったのか。清潔なところにしか降りてこない麹菌(アスペルギルスオリゼ)は国菌になった。麹菌は米を「清酒」にし、「米酢」にする。田んぼの畔で作った大豆と塩で「米味噌」、そして「醤油」「味醂」ができた。全ての調味料は米から生まれる。米粒の中にはやっぱり神様がいると思う。

 

*次回は、11月8日金曜日配信の予定です。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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