第16回 味見(10月19日筆)
著者: 土井善晴
『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。
「おぜんざい」は、小豆が柔らかく煮えたら、砂糖で吸い加減(すいかげん)に整える。小皿に小豆の茹で汁をとり、味見する。「吸い加減」とは、飲んでちょうどいいなと思う感じ。だから「どのくらい? 大さじ何杯?」って、聞き返されるのかなあ。
お吸い物も、吸い加減に整える。一番だしに、塩と薄口醤油で、飲んで、おいしいなと思うくらいの塩加減。ちなみに冬場は少し醤油を多く、夏場は塩を多めにする。
吸い加減は基準になる。おだしたっぷりの「大根炊き」や「おでん」(含め煮)の味付けは、吸い加減よりも濃い目に整えて、じっくり煮るとちょうどよくなる。
「魚の煮付け」や、「芋の煮ころがし」の濃い味付けは、「舐め」て、味見する感じ。舐めるのは「飲む」より少量。煮付け(煮ころがし)は、落とし蓋をして魚や芋に火が入るまで煮詰める。とろりと煮詰まった煮汁は、芋や魚のたれ、西洋でいうソースになって、芋や魚に絡めて食べる。その場合、味付けよりも、煮汁の煮詰め加減で味が決まる。煮汁の色つやを見て、いつ火を止めるかが大事。
味見は、変化の前や、道中にする。それは結果ではなくて、時間をおいた未来にどうなるかを推し量る。といっても、それほど厳密に、プロゴルファーがグリーンの芝を読むように計算ずくではなくて、遠くを見て「こんなもんやろ」という感じ。ところが慣れると、その勘が当たるようになる。すると料理は俄然楽しくなる。
味見は焦点を絞ること、今自分がみているのは、塩味か、甘みか、酸味なのか、漠然とおいしいかどうかじゃない。落ち着いて一呼吸おいたとき、じわりとわかるもの。
*次回は、11月29日金曜日配信の予定です。
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土井善晴
1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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とは
はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
「考える人」編集長
金寿煥
著者プロフィール
- 土井善晴
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1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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