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料理は基準

2024年11月29日 料理は基準

第17回 自然と東アジアの孤島の人々(10月26日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 私たちは、大自然を中心に物事を考えてきた。自然は私たちに豊かな恵みを与えてくれると信じ、疑うことがなかった。この自然の豊かな列島は、ホットスポットといわれるほど、世界でも有数の生物多様性の地域。おかげで私たちは、今まで、水に不自由したことがない。この二つの特性によって、縄文時代、農耕のはじまる前から、湧水地に定住し、自然を畏怖し、共存共鳴する暮らしが出来た。

 そんな風土に暮らす私たちは手を洗う気持ちよさを覚え、そして、すべての生命の働きの不思議に八百万の神を見出した。この列島の自然と人間の秩序ある関係は、今も続く清潔の知恵となる。生の魚を加熱せずとも、安心して、刺身で食べられる。神様でもある食材は、一つ一つを大事にして、きわめて加工度の低い調理によって食べられる。

 人間は自然の一部だが、まったく私たちはそうして生きてきた。自他の区別をせず、他と共になすという和の態度は、古来私たち列島人の生き方となった。

 明治維新の文明開化という近代化とは西洋化。稲作で鍛え上げた精神で機械文明に参加して、国力を上げ、世界に挑み我を失った。敗戦から立ち上がり、持ち前の勤勉さ綿密さを発揮して、世界も驚く高度成長を実現した。さて今、グローバル化の競争社会で負けないように、自己主張して、西洋的な個人主義を取り入れはじめる。ところが列島人には自他の区別がない。主語がない私たちにはどうも上手く出来ない。「私は…」と語りはじめても、その「私」の前には必ず「貴方(他者)」がいるということがわからない。

 

*次回は、12月6日金曜日配信の予定です。

 

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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