シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

料理は基準

2025年1月10日 料理は基準

第21回 サラダ(11月23日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 この頃、夜の食事を軽くしたいと思って、サラダをよく作る。

 片っぱしから野菜を切っていく。清潔なまな板、よく切れる包丁で、胡瓜やパプリカ、人参、トマト、キャベツを千切りにして、大きめの皿にのせていく。玉ねぎは水晒ししない。サラダ菜は、買ったときに、適当にちぎってきれいに洗い水気を拭いてポリ袋に入れてある。

 そうした野菜にプラスして、この日は芝海老だ。ボイルして、丁寧に皮を剥く。この前焼いたお肉の半分食べ残したのを薄く切ってもいい。ツナ缶を開けることもある。何かしらタンパク質があれば、あとは冷蔵庫の野菜とでサラダができ、メインになる。

 こんな、合理的でルール不要の自由自在なサラダはプロの世界にはなかった。

 私は思う。このサラダは簡単ではない。瞬時のセンスの良い判断を要求されるから難しい。センスとは正解の選択だ。正解となったサラダは美しい。細やかな生活の心配りがサラダという詩になって表れる。

 醤油と米酢、オリーブオイルを加減して、割合をだいたい1対1対2〜3ほどにし、泡立て器で混ぜ、とろりとさせてサラダにかける醤油ドレッシングをつくる。これでご飯が食べられるほどだ。

 全卵に油、塩、酢を入れてブレンダーにかけ数秒で作るマヨネーズは物足りない。私は、卵黄を料理鉢に入れて、分離しないように絶えず混ぜながら、油を糸のように垂らし加えることにしている。面倒くさいという感じは起きない。

 このサラダは妻に習った。妻にリードされて料理し、民藝的な愛想の無い器を選んで盛りつけ、テーブルを調えて食べる。これがありがたい。プレッシャーのないところにおいしいものは生まれると知る。

 

*次回は、1月17日金曜日配信の予定です。

この記事をシェアする

ランキング

MAIL MAGAZINE

「考える人」から生まれた本

もっとみる

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき
  •  

考える人とはとは

 はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。

 目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。

 当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。

 まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。

 あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。

 創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。

 読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。

「考える人」編集長
松本太郎

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


ランキング

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき

  • ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号第6091713号)です。ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら