シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

小さい午餐

 久しぶりに泊りがけで東京へ行った。新幹線で4時間、本を読もうと思っていたが手に持ったままで大半寝た。徒歩移動も乗り換えもグーグルマップなしではおぼつかないくせに予定を入れすぎて分刻みスケジュールのようなことになり案の定、別になにが長引いたわけでもないのに約束に遅れそうになった。編集者の人との打ち合わせ、地下鉄を使うつもりだったがグーグルマップにそれじゃ遅刻すると言われタクシーに乗ることにした。タクシーならぎりぎり間に合うはず、が、なかなか空車が来ない。来るタクシー来るタクシー誰かが乗っていて、空車はなぜか反対車線にばかり通る。ようやく乗れた車の運転手の人は世慣れた感じの若そうな男性だった。しゅっとした感じの眼鏡をかけている。ええと、◯◯町の方に行って欲しいんですけど。「承知いたしました。よかったです、ちょうど私も、そろそろ◯◯町の方行って休もうかなー、なんて思っていたところなんですよ」彼は私をわたくし、と発音した。ミラー越しに微笑まれる。若いと思ったが私より年上かもしれない。電子音声でシートベルトをするよう促されたので締めた。たくさんタクシーは通るのにどれも人が乗ってて焦りました。「でしたらちょうど通りかかってよかったです。今、建設中の国立競技場へ、スーツの方を乗せてお送りした帰りなんですよ。中はもう、すっかりできているんですってね」私もさっき建設中の競技場を見た。すごく大きかった。通りすがりの印象ではほとんど限りなく果てなく大きそうだった。私は運転手さんにどうですかオリンピックと尋ねた。開催中はすごく渋滞したりしてお仕事大変になるんじゃないですか?「いやそうでもないでしょう。海外からの観光の方はそこまでタクシーお乗りになりませんし…あと私、前職の関係でアテネオリンピックのとき現地へ行ったんですけれども」え、なんのお仕事してらしたんですか。「いやあ、普通の。でも親会社が実業団を持っておりましてね。そこの選手が出ることになったものですから応援に駆り出されまして」わあすごいですね。ミラー越しに再び目が合い「まあでもぜんっぜん盛り上がってませんでしたよ、そのときのアテネ」突然彼の言葉遣いが崩れた感じがした。そうなんですか?「本当にやってるのかなあみたいな。こう、ポスターとかがいっぱいあるのかと思うじゃないですか。それがぜんっぜん」人もそこまで?「そうですね。まあホテルはいっぱいとのことで競技場からかなり離れた場所に泊まりましたけど、それもお客さんだか関係者だか」今走っている道は混んでいて、オリンピックなんてなくても東京平日の昼過ぎの車道は混んでいて、グーグルマップが表示していた車利用の場合の到着予定時刻はぐずぐずと後ろ倒しになって目的地は多分まだ遠い。私はすいません遅れます申し訳ありませんとメールを打ちながら、で、どうでした? オリンピック。「いやそれがまあ、見なかったんですよね、試合」え?「手違いでチケットが足りなくて。それで選手のご家族優先で、我々はホテルで待機、しまして」それは残念でしたね。「いやまあね。ホテルが海の方にあったので普通にリゾートというか。役得、なんて。ホテルの人もふーんオリンピックやってんのよねえあっちでねえみたいな感じで。だから東京もそんなもんじゃないですか」でも、いろいろ、環境とかお金とか熱中症とか、問題が、いろいろ。「なーにやってんだかなあとは思いますけれどもねえ。誰かがズルしてるなあとも思いますし。まあ、でも、ここまできちゃあ、ねえ」

 その後東京では講演を聞き、友人に会いさらに打ち合わせもして最終日、帰りの新幹線に乗るため東京駅に向かった。新幹線は昼過ぎ発の便で、駅弁を買うか駅で軽く食べるか。子供にお土産を買う必要もある。東京駅には本当になんでも売っている。どこでなにを食べなにを買えばいいのかいつも迷う。あれを食べよう買おうと決めていたらその店が見つからなくて焦るし、ノープランならそれはそれで混乱し選びに選んで買って帰ったものは広島でも売っていたりする。特に子供へのお土産は難しくて、珍しかろうが高価だろうが大人が食べておいしかろうが喜ばないときは喜ばない。日々更新される琴線、私はスマホで「東京駅 お土産 子供」と検索した。駅の地下街にキャラクターショップ街があると出た。いろいろなキャラクターものを扱うショップが並んだ一角があるらしい。ポケモンにプリキュア、ディズニー系もあってサンリオ、そこに行けばなにかあるだろう。駅には平日の朝だというのに人がたくさんいた。迷いなく進む人もいるが、案内板とスマホとを見比べている人も大荷物を床に置いてしゃがみこみそうになっている人もいる。オリンピックの頃はどうなるのだろう。地下鉄の駅にオリンピック混雑防止のため出勤時間をずらそうという趣旨らしいポスターがたくさん貼ってあったのを思い出した。東京で会う人会う人、皆オリンピックに懐疑的というか端的に嫌そうだった。あるいは運転手さんのように苦笑嘲笑交じりの諦め顔、打ち合わせをした出版社の人は「仕事休んで東京じゃないところへ避難してたいですよね」と言っていた。来夏の宮島の花火大会は、オリンピックのため警備等の人員が集まらないという理由で開催中止が決まっている。東京にいたって地方にいたって。東京駅のキャラクターショップ街にはやはり家族連れが目立った。ポケモンショップから人があふれていた。私の知らない女児向けっぽいきらきらのアニメの店もある。誰かの買い物を待っているらしく通路の隅に数人分のキャリーバッグを周囲に置いて立ったり座ったりしている人もいる。大きな袋を下げている人もいる。私はいくつかの店を見た。とりどりに並んでいる店店は1軒ごとの間口が狭く、うろうろしているとなんだか他の、明確に目的があるお客さんの邪魔になっているような気がする。1軒の店に入るとクジ、買うとその場で何等かわかって景品と引き換えてもらえるコンビニや書店でよく見るクジをやっていてたった今、1人の女性客がとてもいいものを当てたようで店員さんがおめでとうございますと祝福していた。女性客がラッキーラッキー嘘みたいと喜んでいて彼女の連れの男性も隣で嬉しそうにしていて、それがレジ前ではなくて店の中央あたりだったので棚が全然見えず、彼らの前後に無理に入りこんでまでして見るのもなと店を出かけたところで大きなバチン! という音が聞こえた。くじに当たった人や店員さんとともにハッと見ると、浅黒い肌に黒髪の10歳くらいの女の子の前で大きなキャリーバッグが横倒しになっていて、多分寄りかかろうとしたのだろう、丈夫な素材のキャリーバッグの表面と床がぶつかってそんな音が出たのだった。彼女は少し恥ずかしそうにその大きくて分厚いキャリーバッグを起こそうとした。大丈夫かなと思ったが彼女の兄か従兄らしい男の子が駆け寄って笑いながら手を貸した。女の子も笑った。ポケモンのガチャガチャを前に少女たちがきゃっきゃとはしゃいでいる。野太い声で子供を呼んでいるお父さんがいる。しゅっと投げるとふわっと回って手元に帰ってくるおもちゃの実演をしているお姉さんがいる。混雑する人々に当たらないように、でも人目にもつくように間合いを計ってしゅんとおもちゃを飛ばしつつ英語で説明をしている。あんなに多いと思った人の数が、さほどの距離でもないのに歩くうちさらにどんどん増えていく。あんみつという文字が見えた。黄色っぽいオレンジっぽい色味の明かり、キャラクターショップ街の中に甘味処がある。思わず入った。店は半分くらいの入りで、老若男女のなにかを買おうとする熱気に満ちた喧騒と比べると明らかに静かで落ち着いていた。お好きな席にと言われ2人掛け用の小さい真四角の卓に座る。隣には私と同年代の女性客が座って薄墨色にとろけたクリームを小さいスプーンですくっている。器の感じからして多分ソフトクリームかアイスののったあんみつの終盤だろう。店員さんが温かいお茶を持ってきた。私は普通のあんみつを頼む。あんみつ久しぶりだな、広島でも食べようと思えば食べられるのだろうがなかなか機会がない。メニューを見ているとあんみつの下に白玉あんみつとあった。白玉も好きなのにそれこそ食べる機会がない、白玉あんみつにすればよかった、今から白玉あんみつに変えてくださいと言ったらまだ間に合う気はするけどでも、もう厨房に注文届いてるだろうし、白玉あんみつとあんみつは110円ほどの差でメニュー写真から推測すると白玉は4粒、こういう葛藤をしたあとで食べていまいち白玉だったらこれ1粒27.5円かとか思ってしまうかもしれない。抹茶あんみつやあんずあんみつ、クリームあんみつ、磯辺焼きとかお雑煮など塩味のお餅メニューもある。このあたりを頼めば昼食っぽいがでも今はあんみつが食べたい。お昼時にあんみつだけで済ませたら変な時間にお腹が空くかもしれないがそれでもやっぱりあんみつが食べたい、甘いものはちゃんと野菜とご飯食べてからとかもう誰にも言われないような大人になったんだからせっかく私は。隣の女性が立ち上がって会計した。2人連れや3、4人連れの人もいるが店内は割と静かだ。おしゃべりの声も、潜めているわけではないだろうがあまり大きくない。私の座った位置からはさっきのキャラクターショップ街に面した窓越しに人が行き交っているのが見える。窓の手前には相席用だろう大きな机があって、その隅っこに、男女2人連れが並んでこちら向きに座っている。女性の方は多分日本人なのだが男性の方は髪の毛が赤く肌が白いおそらく外国の人で、2人ともどこかしょんぼりした様子で話をしている。私が来る前から座っていたがお茶とおしぼりだけを前にしている。ここは結構時間がかかるのかなと思ったら私のあんみつがきた。小ぶりな白い器に入っていて、白い求肥が2つ、缶詰みかん2房、四角いこしあん、寒天と豆がその下から見えている。どうしてあんこが四角いのか、もしかして水羊羹的に寄せてあるのかと思ってスプーンで触れるとそうではなくて水気の多いなめらかなこしあんだった。バットかなにかに冷やしてあるのをへらで切り出しているのだろうか、結構な技術ではなかろうか。あんこをちょっとすくって寒天と食べると甘い。ほんのり冷たいが冷え冷えでもなく、それが口に喉に胃にありがたい。寒天はほろっとしつつぷりっともしている。ああこれこれと思う。家でも粉寒天で牛乳かんとかキウイかんとかを作るが、お店のあんみつの寒天はやっぱり違う。口中に崩れる度合いが優しいのにかすかな弾力というか粘りのようなものがある。器の底の方に黒みつが溜まっている。子供の頃はなに味かわからなくて苦手だった、多分ミネラルの味というか鼻にこもるようないつまでもたなびくような味、豆は軽い塩味でしっとりほくほくしている。果物が缶詰みかんだけなのもいい。さくらんぼとかバナナとかりんごとかがとりどりに入っているあんみつもあるしそれはそれでいいものだが、あんこと黒みつの味に合う果物は缶詰みかんが1番だと思う。そして求肥、白い、薄く粉がまぶしてある長方形の求肥は柔らかいのにコシもあって薄甘い。噛むうちにお米のいい香りがしてきて2切れじゃ足りない、追加したいくらいだがトッピングメニューに求肥はない。スプーンに求肥と豆とあんこをのせて口に入れて噛んでいるとつくづく幸せな気持ちになる。いつまで噛んでいてもいい。緑色のお茶を飲む。求肥の味を思うと白玉も尋常でなくおいしかった可能性が高い。次もし来ることがあれば白玉を入れよう。スプーンが小さいので満たされている心に反して手と口の動きが我ながらせわしない。いらっしゃいませと聞こえ、幼い子供を連れた母親が入ってきた。ベリーショート、大きなピアス、黒地にオレンジ色の蝶模様がプリントされた艶やかなストールを垂らしている。途端に、しょんぼりしていた窓際の男女がパッと顔を明るくし、ポクシ! と声をあげた。「つかれたー」と言う幼児を男性の正面の席に座らせてから、若い母親がこれここ置いていいですかとベビーカーを店の入り口の脇に置いた。「混んでた?」「元気?」男女が口々に幼児に尋ねた。「げんきー」幼児が答えた。「あついよー」「暑いね、今日も暑い。人も多い」男性が深くうなずいた。「注文はもうしたの?」母親が尋ねた。「ああ、まだ。2人が来てからと思って…でももう決めてる」「どれ?」「これ」女性は広げたメニューを指差して答えた。「おいしそー。アンリさんは?」アンリさん、と呼ばれた男性は「これかな」と指差した。「あれー今日は、甘くないのがいいの?」さも珍しそうに母親が言った。アンリさんは甘党で知られているのかもしれない。アンリさんは軽く微笑むと「今の気分。ポクシはどうするの?」「ぼくはねー」幼児がメニューに覆いかぶさった。文脈から「ポクシ」が幼児の名前なのだが、あだ名か聞き違いかそれとも外国の名前なのだろうか。昔、パクシというクレイアニメがあった。「アイスあるんでしょー?」「アイスはね、このへん。あんことかフルーツの上にアイスのってて、こっちはアイスだけ」「えー。じゃあこれ!」幼児がどれかを指差し、アンリさんは大きくうなずき「いいチョイスだ」と言った。「決断が早い」とその隣の女性も言った。いらっしゃいませと聞こえて、高校生か大学生くらいに見える男の子と母親らしい女性が入ってきた。2人は小さい卓に向かい合って座った。男の子が大きなリュックとボストンバッグを持っていて、どこかその顔は緊張しても見えて、季節外れだが就職とか進学とかの上京かもしれない。ショートカットの母親は奥側の椅子に座るとふうと息を吐いてからメニューを広げ息子に渡しあんたどれする、と言った。「かあさんは」「あたしはあんずのあんみつ」「あんずか…」幼児の一行が注文をしている。アンリさんの発注は磯辺焼き、女性はクリームあんみつ、ポクシくんが頼んだのは抹茶アイスがのったあんみつだった。「私はお姉ちゃんの少しもらってもいい? どうせポクシが残すし」母親が、アンリさんの隣にいた女性に言った。「もちろん」ということは、女性2人は姉妹で、アンリさんはポクシくんの伯父さん、おそらく地方に住んでいる妹が息子を連れて東京に住む姉を訪ねにきたのだろう。最初2人の顔がさえなかったのは無事到着するか心配していたのかもしれない。「のこさないから」ポクシくんが言った。「ポクシも磯辺焼きを食べる? 少し」「んー、たぶん」「よく噛んで食べよう」高校生の彼が店員さんを呼んでクリームあんみつとあんずあんみつを頼んだ。「ポクシあんこ好きだよねえ」「うんすき」「抹茶もね」「おいしいよね! 宇治金時とか、私も大好き」さっきまでの悄然とした顔が嘘のように皆明るい様子をしている。私までよかったよかったと思う。「ぼくうじきんときたべた。なつやすみにしょうぼうしょのとこで」「消防署?」「近所に消防署あって、その近くにお店あって、夏はかき氷売ってて…東京の、行列するようなふわふわのやつじゃないよ。普通の、イチゴとかブルーハワイとかの」「うんうん」「150円くらい高い、宇治金時だけ」「なんで、うじなの? うじってなに」きんときはわかるのだろうかと思ってすぐ、私も金時豆でもない茹で小豆のせをどうして金時と呼ぶのか知らないなと思った。茹でる前の小豆が赤いからだろうか。いや、赤かったら金時っていうのはなんの知識か。さかたのきんとき、という名前が脳裏をよぎった。金太郎の本名だった気がするが、金太郎の赤い腹掛けの色と関係があるか。「宇治はね、京都の地名で抹茶の産地」「うじ、うじ、うじにいきたい」「いいね! 今度は京都に行こう!」アンリさんが嬉しそうに言い、すぐに隣の女性から「ポクシはあなたと違って暇じゃないよ」とたしなめられた。「幼稚園だってあるし」「えー、やすめばいいよ。このまえショウコちゃんディズニーランドいくってやすんだし」「ディズニーより、京都の方がもしかしたら今は人多い」「オリンピック終わったら行こう」「そうしたらポクシ小学生よ」「しょうがくせい!」アンリさんとポクシくんがハモるように同時に小さく叫んだ。オリンピックが(仮に本当に無事に開催されたとしてそして)終わってポクシくんはもう小学生になっている未来、少し先の、時間的にはそこまで先でもなくて多分確実に来るはずだけどでも、まさか本当にそんな日が来るなんてと思うような、その頃自分がどんな顔でどんな生活をしているかわかりきっているようで実は何もわからない。小学生の自分が宇治の街を歩いているのを想像したのかポクシくんが笑い始めた。アンリさんも笑った。姉妹も笑った。私は器に残った黒みつにこしあんが溶けているのをスプーンで舐めた。舌先にあんこの粒子がさらさら当たって、寒天からにじみ出たのか海のような香りもして、薄い塩気、もちろんとても甘い。「クーイズ、クイズ。ぼくのランドセルなにいろか? わかるひと? ママはこたえちゃだめ」「はいはい」「ってことは、黒じゃないのかな」「紺色?」「ちがう、ちがう!」クイズの結果が知りたかったが、そろそろ子供のお土産を探しに行ったほうがよさそうだった。器にはスプーンで掬いきれなかった黒みつが少しだけ残っている。底に花の模様が見えた。店を出ると行き交う人の数はまた増えていた。

庭

小山田浩子

2018/03/31発売

それぞれに無限の輝きを放つ、15の小さな場所。芥川賞受賞後初著書となる作品集。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

小山田浩子

1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2013年、同作を収録した単行本『工場』が三島由紀夫賞候補となる。同書で織田作之助賞受賞。2014年「」で第150回芥川龍之介賞受賞。他の著書に『』『小島』『パイプの中のかえる』など。

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