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虎屋のようかん

2020年2月11日 虎屋のようかん

虎屋文庫は、今日も和菓子です〈ようかん情報編〉

虎屋 赤坂ギャラリーを訪ねて

著者: 考える人編集部

ようかんって、そもそも羊肉の汁物だったというのは本当? そんな疑問に答えてくれるのが虎屋の菓子資料室、虎屋文庫だ。日々、和菓子の研究をするこの虎屋の一部署が、『ようかん』という本を出し、同時に展示も開催(現在は終了)。一冊の本ができるほどに、ようかんは奥が深いものなのだ――興味津々、赤坂店内にある虎屋 赤坂ギャラリーへ。案内してくださったのは虎屋文庫の所加奈代さんだ。

―「虎屋文庫」とは、どういうところですか?

1973年に創設された、株式会社虎屋の菓子資料室で、現在は7名のスタッフが在籍しています。史料の収集・保管を行っており、大きく分けて、歴代の店主や経営に関わる文書や古器物といった虎屋に関する史料と、和菓子全般についての史料の2種類を対象としています。一般に開放し閲覧いただく図書館のような機能はないのですが、史料に基づいた調査・研究を行い、和菓子にまつわる展示を催したり、『和菓子』という機関誌を発行したりと、情報発信に努めています。お問い合わせにもできる限りお答えしています。

―普段何しているの? と聞かれることもあるとか(笑)。

聞かれます(笑)。何をしているのか、社内でさえ謎の部署と思われているのですが、結構忙しくしています!

企業のアーカイブ部門として、日々、史資料の収集・整理にあたるとともに、年間の仕事では先ほど申し上げた通り展示の開催と機関誌の発行があります。日常的にはホームページ等での情報発信や外部記事の文章確認、そしてお問い合わせ対応もありますね。和菓子の歴史的なお問い合わせが多いです。もちろん虎屋の和菓子以外のことも多くあります。お菓子の展示をされる博物館も最近では増えているようで、和菓子に注目が集まっていることをうれしく思っています。

他にも「和菓子好きが集まっているのか」とよく聞かれますが、基本的にはやはりそうです。詳しくなっていくのはもちろんですし、私自身、もともと甘いものが大好きでした。実はすごく大食いで、普通に生菓子6個をぺろりと食べられます。それが普通ではないと大きくなってから気づきましたが(笑)。

文庫のメンバーもみな日常的に和菓子に注意が向くようで、出張に出かけると何かしら買ってきますし、珍しいものや地元のお菓子屋さんを見かけると立ち寄らずにはいられないようです。

―そんな文庫のメンバーで企画したのが、今回の展示(現在は終了)なんですね。

赤坂店にはもともとギャラリーがあり、そこで78回、これまでにも展示を行ってきました。ビルを建て直すことになり、内藤廣先生の設計で、低層階にし、2019年10月に店を再開しました。新赤坂店の地下に虎屋 赤坂ギャラリーが置かれ、赤坂店が主に展示やイベントの企画で使用、年に一度文庫の展示も行うことになりました。以前のギャラリーからは広さが約1・4倍になっています。

今回の『虎屋文庫の羊羹・YOKAN』展は、文庫としては4年ぶりの展示なので、「再開御礼!」を冠しました。【注:展示は2019年12月10日で終了。この記事はそのレポートということになるのでご注意ください】

展示入り口

―テーマがズバリ、ようかんですね。

そうなんです。ようかんは、虎屋の代表商品ですが、今まで本にまとめる機会がなかったところを、そのままタイトルも『ようかん』として一冊にまとめて、出させていただきました。

本のエッセンスを出しつつ、展示でしか体感できない実物の質感や魅力を伝えることを心掛けています。展示されているお菓子は本物なので交換が必要です。古い資料から記述だけをたよりに再現したものも多いんです。和菓子屋ならではと言えるでしょうか、形にすることで納得される方が多いようで、本に掲載した写真の現物も出ていると好評です。

―入り口横のこの写真がお菓子を作られている職人さんなのでしょうか?

はい。東京工場製造課の菓子職人です。ようかんの製造は主に御殿場工場で行っていますが、展示用の生菓子は元赤坂にある東京工場でつくっています。同工場の製造課の職人は、40人くらいいます。今回の展示菓子担当は中堅と若手の2人がペアで、学びつつ伝えつつというコンビになっています。

―さて、見て回りましょうか。全体を見回すと、ようかんを包んだ包装紙がたくさん並んでいるこのコーナーは、華やかですね。

全国の近代のようかん商標を集めた人気コーナーです。楽しいとおっしゃってくださる方が多く、デザイン関係の方も皆さん面白いねと見てくださって。

全般に栗ようかんが多く、人気のほどがうかがえますね。ただ、中にはかなり変わり種もありまして、わさびや蓮根、セリのようかんもあります。他にも気になるのは群馬の松茸のものです。

ここにあるのは、数多く収集した内の一部です。外部の博物館などのコレクションでもよく見かけるので、数限りないようかんが全国各地でつくられてきたとわかります。

それほど、ようかんというのは愛されてきた存在なんですね。ようかんは特産品を使った味を工夫しやすく保存もききますし、持ちはこびにも便利なところも好まれたのかと思います。

包装紙は、コレクターが多い分野なので、お持ちの方は多いと思います。絵としてもかわいいので、集めて楽しいですよね。

―「こういうのがありました」と、報告される方もいますか?

はい、ありがたいことに、お客さまからはたまに「こういう珍しいのを持っています」といったご連絡を頂戴することもあります。そうして教えていただくと、こちらも勉強になります。

いまはなくなってしまった江戸の名店4店「鈴木越後」「金沢丹後」「船橋屋織江」「藤村」をご紹介したコーナーもあります。地図(上)で見ると、格式を誇った鈴木越後や幕府御用菓子屋の金沢丹後は、いい場所(日本橋)に店を構えています。船橋屋織江は川向こう、粋な場所にあります。

江戸時代には華やかな色合いや、かなり意匠の凝った、高度な技術のようかんがつくられていました。

そして、展示菓子担当者が今回一番苦心して再現してくれたのが、こちらです。

「錦羊羹」と、もとになった見本帳

金沢丹後の見本帳(現在の商品カタログに相当)に見える菓子ですが、製法は不明で、この絵図のみから再現をする必要がありました。絵図を見せて、左頁下段の錦羊羹(右)か星羊羹(左)かどちらかを再現してくださいと職人に頼んだら、「チャレンジしてみます」と頑張ってくれました。

真ん中の模様がちゃんと金太郎飴状に抜けていて、どこを切ってもこの模様が出ます。

白い模様の部分ですが、最初、白い生地を丸めただけでは輪郭がぼやけてしまい、線が出なかったので、白い生地に肉桂を塗って輪郭線が出るよう工夫してくれました。

ちなみに、「竹皮」が、ようかんを包むのに一番スタンダードな、江戸時代からあるかたちなんですが、明治時代頃になると缶詰のようかんが出てきて、日持ちをより長くしようという改良が常に繰り広げられていきます。虎屋でも主に海外向けに明治末期から缶詰ようかんの製造を始めました。一方で、戦前にボール紙にアルミ箔を貼ったものに充填をする技術が生まれ、戦後に今の主流であるアルミ製の中袋へと発展していった、といったこともご紹介しています。

こちらは、つくり方に注目をしたコーナーで、意外とつくり方を見ていただく機会がないので蒸ようかんや煉ようかんについて代表的な虎屋の製法を紹介しました。

名前の通り、蒸ようかん(上)は蒸す工程が、煉ようかん(下)は煉り詰める工程がポイントになっていることがおわかりいただけると思います。

ようかんに関する製造道具を並べまして、クイズ形式で扉を開くとその中に答え(道具の名前や使い方)があるというコーナーです。

中央のケース右側が羊羹の「船(船)」。

たとえば、中央のケース右側の金属製の枠は、煉ようかんを流すための容器で「船(舟)」と呼ばれるものです。ようかんは一本、二本、ないしは一棹、二棹とも数えますが、それはこの流す容器が「船(舟)」と呼ばれ、船には棹が付きものだからなんです。船だから棹、となると、「ああ、なるほど」と皆さん腑に落ちるようです。

ようかん包丁

他にも充填用のジョウゴや羊羹包丁も展示しています。『ようかん』の本の中では、「ようかんを楽しむ」という箇所で「きれいに切るには?」と切り方を丹念にイラストで紹介したので、ぜひ実践してみてください。「まな板にむかって平行に立ち、右足を半歩後ろに引く」など具体的でお勧めです。

カバーの「夜の梅」の美しさにぜひご注目を。切り方について、詳しくは書籍をご参照ください。

虎屋のようかん編に続く〕

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

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考える人編集部
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2002年7月創刊。“シンプルな暮らし、自分の頭で考える力”をモットーに、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。


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